観測世界124334番<ミドルエイジス>:『天』の名の下に

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 頭目の死によって、盗賊どもは完全に戦意を失った。  ある者は降伏し、ある者は一目散に逃げ出す。破れかぶれに徹底抗戦を決め込む者も数人いたが、それも全てゼノンによって切り捨てられた。  このことにより、頭目の作った盗賊団は崩壊。村人達は生き残ったこと、予期せず村を襲われたことへの報復ができたことに歓喜し、それを成したゼノンを惜しみない讃美の声を送るのであった。  ――そして。  盗賊団の崩壊から、五日後。 「さあ皆、どんどん飲んで食べてくれ! 今日は無礼講だ!!」  朝早くの村の広場に村長のはしゃいだ声が響き、 「おう、そのつもりだあ!!」 「こんな時くらい、パーっとやらねえとな!!」  それに応じるように、広場に集まっていた村人達から声が上がった。  広場に集まった村人は100を超えており、村中の人間が集まったかのような様相を呈している。また、広場には多くのテーブルが並べられており、その上には山盛りの料理やたくさんの酒壺が置かれていた。  村長の声を皮切りに村人達はそれらを好き勝手に飲み食いし始める。  普段口にできないご馳走の数々に、彼らは頬を緩めてそれらを味わっていた。 「料理や酒はまだまだあるよ! 今までの鬱憤(うっぷん)全部晴らす位に、飲んで食って騒いでやろうじゃないかい!!」  そう言って、女村人が新しい皿を持ってくる。彼女の後ろには同じように皿を持っている者が何人かおり、テーブルに皿を置いては厨房へ引き返し、置いては引き返しを繰り返していた。  村人達の顔は、皆明るい。  襲撃の傷跡は未だ色濃く村に残っており、焼けた家屋や新しく作られた墓などは村人達の受けた仕打ちの惨さを物語るに十分であったが、それでも彼らは笑い合って見せる。  なぜ、彼らはここまで明るく振る舞えるのか――それは盗賊どもに取られた物資や連れ去られた村人達が、全てではないにせよ、返ってきたからだ。  きっかけは、やはりゼノン。  村を襲った盗賊どもを一掃した後、すぐさま彼らの本拠地に攻め込むと言い出したのだ。  唐突な発言に村人達は目を点にする。しかしゼノンは彼らの驚きを余所に、盗賊どもに取られたモノを取り返す機会は今しかないと力説した。 「盗賊どもはこの村を襲った連中でほぼ全てであろうし、本拠地の守備は手薄になっているであろう。それにもし仮に手勢が残っていたとて、私がいればなんとでもなる。……もし今という機会を逃し、残党が本拠地に残っていれば、取ってきたモノに何をするか……下手をすれば、丸ごと雲隠れしてしまうやもしれぬ。無論今の時点でそうなっている可能性もあるが、例えそうでも――いや、迅速に動かねばならぬのだ」  そう、ゼノンは言ったのだった。そしてそれを聞いた村人達は顔を見合わせてゼノンに同意。  すぐさま有志を募り、盗賊どもの残した武器や防具を使って急造の部隊を編成。降伏した盗賊に本拠地へ案内させ、攻め込んだのである。  結論から言えば、抵抗は殆ど無かった。  ゼノンの読み通り盗賊の殆どは村を襲った者どもでほぼ全てであったし、残党もいるにはいたが10人にも満たない数であった。  しかも彼らにもゼノンの強さは伝わっていたらしく、ゼノンが頭目を討った話でもすれば、即座に武器を投げ捨て降伏したくらいであった。  かくして、村人達は奪われたモノを取り戻すことができた。  数日かけて盗賊どもの残党の処理――武器や防具を取り上げ、追放するに留めた。報復を望む声もあったが殺すことに反対する声は多く、その声を汲んでの沙汰であった――や、取られた物資の運搬、連れ去られた村人の確認などを済ませる。  それらを終えた村人達は、村を救ってくれたゼノンへの感謝のために宴を催すことを決めた。そして盗賊どもの再襲撃から五日目に、ついに宴は開かれたのだった。  宴の規模は、広場だけに留まっていなかった。村全体が喜ばしいことがあった際、行事のあった際のための飾り付けをしている。無事な家屋からは炊事の煙が常に上がり、軒先ではしゃぐ村人の姿が見られた。  そしてそんな彼らの中心にいるのは、もちろんゼノンである。 「ほらほら、酒が進んでねえじゃないですか、ゼノン様!」  村の広場にて、彼のために用意された椅子に座り、ゆっくりと酒を飲んでいたゼノン。それを目敏(めざと)く見つけた村人が顔を赤らめながら絡んできて、勝手に彼のコップに酒を注ぐ。  自分のペースで飲んでいたゼノンは、口では礼を言いつつ若干迷惑そうであった。 「うむ、ありがとう……しかし私は私で楽しんでいるから、そう気を回してもらわずとも良いのだが――」 「そうはいきませんや! 貴方に気を回さなかったら、それこそ俺たちの顔が立たねえ!」  やんわりとなだめようとしたゼノンだったが、興奮した様子の村人には通じずにまくし立ててくる。しかしその目には、じんわりと涙が滲んでいた。 「貴方には、本当に感謝してる……感謝してるんです! 貴方がいなかったら俺たちは泣き寝入りするだけだったでしょう――それを貴方は、全てひっくり返した! あのクソ(盗賊)どもに取られたものや、連れて行かれた奴らだって取り戻して下さった! そんな方に気を回さずに、誰に回すって言うんです!?」 「いや、それはそうかもしれないが、私自身が気にしないでくれと言うのだし――」 「聞こえません! まったくもって、そんなもん聞こえません! そうだろ、皆!?」  周りの村人に呼びかける。すると彼らからも、「そうだそうだ!」という声が上がるのだった。
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