ブルーハッピーエンド

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『おい、千秋。今月の分がまだ振り込まれてないぞ。支払いが出来ないじゃないか』 「……ごめん。ちょっと、バタついてたから」 『早く頼むぞ。まったく。延滞料金で上乗せされちまう』  父からの電話を切って、しばらく放心とする。  どうしてわたしばかり、こんな目に遭わなければいけないのか。  小学三年生の時、母が家を出た。ひとりっ子のわたしは、父と二人で生活することになって、勉強のかたわら家事もこなした。  朝早くから遅くまで父は働き、いつも家には一人だった。休日でも、どこかへ遊びに出かけた記憶はない。  それでも、父が自分のために頑張っていることは分かっていたから、弱音や愚痴を言わないでいた。  高校へ通い始めて、しばらくして、父の会社が倒産した。なかなか次の就職先が見つからず、酒に明け暮れる毎日。喧嘩が絶えなくなって、早く家を出るために東京の大学へ進むことにした。  対面キッチンの向こうから、彼女が野菜を切る音がする。 「電話、家から?」 「……うん、まあ」 「全然帰ってないんでしょ? 会わなくていいの? 私が言えたセリフじゃないけど」 「……ほんと、それ。レナはちゃんと帰んな」 「今度の連休は帰りますよー」  あははと笑う彼女に、晴れなかった気持ちが少しだけ和らぐ。  生活費をせびられるようになったのは、社会人になってから。  毎月、五万の仕送りと奨学金の返済があるから、正直キツい。強く断れないのは、男手一つで育ててもらった恩があるから……なのかもしれない。  キッチンに立つ彼女を、背中からそっと抱きしめた。恥ずかしそうに頬を染めながら笑みをこぼす横顔に、わたしはずっと救われている。
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