今どこにいますか?

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 高校を卒業したあと、マイクは不動産会社に就職した。大学進学にも憧れはあったが、何より早く母のことを助けたい。親孝行の一心で就職に踏み切った。妹にももっと贅沢な暮らしをさせたい。彼らしい思いやりだった。  全国に支店を持つ不動産会社に就職したことで、マイクはあちこちを飛び回った。  なんてったってアメリカは広い。短期間の出張で済むわけもなく、マイクは会社に命じられるまま、何度も引っ越しを繰り返した。  アリゾナ、ミシガン、カリフォルニア、ワシントン、そしてまた新たな地に足を踏み入れた。  彼の仕事ぶりは会社から高く評価され、マイクはどんどんと出世していった。その度に、母へと送る仕送りの額も増えていった。 『メアリーに新しい洋服を買ってあげました』  そう言って、おしゃれな服に身を包みポーズをとる妹の写真つきメールが送られてくる。その度に、マイクの頬は緩んだ。 『たまには母さんも贅沢してね』  母への労いを欠かすこともなかった。  平穏な日々はその後も続き、何度かの恋愛を経験したマイクは、めでたく結婚することに。同じ会社に務める同僚の女性だ。  ささやかではあるが結婚式も挙げられた。愛する妻との暮らし。仕事はいたって順調。早く母さんに孫の顔も見せてあげたい。どこまでも広がる無限の未来を想像し、マイクは雲ひとつない空を見上げた。 『マイクは今、どこにいますか?』  え?  僕はその質問に目を丸くした。あまりにも唐突にそれを突きつけられたからだ。  もう一度、問いを見返す。 『マイクは今、どこにいますか?』  ん?  今、マイクがどこにいるかなんて記述、あったっけ?  ふと時計に目をやると、残された時間の少なさに焦りを覚える。ウロウロと歩き回る教官が視界に入り、気が散って仕方がない。  高校の期末テスト。今、僕は英語のテストに挑んでいる。  問題用紙に書かれた長文に目をやるが、どこにそんな記述があるのか見つけることができない。どこかに地名の羅列があった気がしたが、それがどこなのか探すことができない。  丁寧に英文を読んだつもりだ。マイクのことは誰よりも深く知っている。そこまで感情移入しなくても、と(とが)められるほど没入して長文を読んだはずだ。  やはり僕は、長文読解が苦手なのか――  呪文のように連ねられる英文の中に、マイクが今、どの地にいるのか、その答えが示されている。ただ、長文の読解問題に辿りつくまでに、あまりにも時間を使い過ぎた。並べ替え問題につまずいたからだ。もう一度、長文を追っている時間は、僕にはもうない。  アリゾナか? いや、カリフォルニアか? 違う。それは過去のマイクだ。今のマイクは、きっと別の地にいるはずだ。  悩んだ僕はやけくそになり、脳内にマイクの微笑む姿を思い浮かべながら、回答用紙に殴り書きした。 『マイクは今、雲ひとつない空の下にいる』と。
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