迷い猫

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 おまわりさんの家は帰りたくない家でした。いつも人間にどなられたり、たたかれたりしました。  ある日、見知らぬところをさまよっていました。そこは死後の世界でした。けど、死後の世界だとすぐにはわかりませんでしたので、ママのところに帰りたいと泣きました。大きらいな家でしたが、ママのことは大好きだったのです。  おまわりさんの呼び名は「ぼうや」でした。ママはいつも「ぼうやぼうや」となめたり温めてくれていました。疲れきっていて、毛はところどころ抜け落ち歯もぼろぼろでしたが、愛情たっぷりに世話をしてくれました。  気づくとぼうやは家の前にいました。けど、家にはいって飛びこんできた光景はとてつもなく最悪なものでした。床に転がったママがなぐられ蹴飛ばされていたのです。 「この役立たずが」  人間が暴力をふるい、ママは悲鳴をあげ、ケージにはいっている周りの犬たちも鳴きわめいています。  ぼうやはこのときはじめて、自分が収容されていたのと同じ型のケージがずらりと並んでいることを知りました。  実は、ここの人間は劣悪な環境で子犬を量産する悪徳ブリーダーなのです。犬たちにはそんなことわかりません。ただ長いことここにいた母犬たちは、人間に対して負の感情でいっぱいでした。  憎しみがひしひしとぼうやにも伝わってきました。魂だけになっている状態では、周りの魂の叫びを感じやすいのでしょう。  ぐしゃぐしゃの心がはいりこんできて、ぼうやも人間のことが憎くて憎くてたまらなくなっていきました。  人間がママの首に縄をかけたそのとき、ぼうやのなかにたまった負の感情ははじけました。  ぼうやは人間に呪いとなって襲いかかってしまったのです。  呪いでぼうやの魂は(けが)れてしまいました。成仏できなくなり、この世とあの世のはざまをさまようことになりました。  そして、ぼうやはもう自分のように呪う犬や猫をださないために、はざまの交番でおまわりさんになったのでした。
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