迷い猫

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「今どこにいますか」  猫が、交番に立っていた犬のおまわりさんにたずねてきました。 「今いるとこはなんかおかしくて、こわくて、おうちに帰りたいよ」  猫は泣きだしました。やせ細っていて、(さば)もようの毛はぼさぼさで葉やじゃりがまとわりついてます。  こういう状態の猫におまわりさんはなんどか会ったことがありました。たいていは子猫で、親や飼い主に捨てられた帰る家がない名もなき子たちばかりでした。けど、この猫の見た目はもうおとなのようです。 「名前はあるかい?」 「うん。ぐれこ。みちこのぐれこ」 「そうか。名前はあるんだね。ちょっと待ってて」  おまわりさんは届いている情報を調べてみました。たしかに、ぐれこにはみちこという飼い主が待っています。  うーん、とおまわりさんはたれた長い耳をつかんで眉間(みけん)にしわをよせました。  猫がこんな状態になるまで飼い主のもとに戻れないのは、飼い主が本気で探してないからかもしれません。それか、飼い主のことがいやで家出したことをぐれこが忘れているからかもしれません。  このまま家に帰すべきかおまわりさんは悩みました。だって、おまわりさんは帰りたくない家に帰って暴れて人間を呪ってしまったことがあるのですから。
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