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快楽堕つ
黒崎はカジノビルの前にいた。
左腕に嵌めた高級時計で時間を確認する。
午前三時から十二分が経過している。
携帯電話を手に取り、霧子の電話へと掛けるが、
『お掛けになった電話は電波の届かない場所にあるか…… 』
応答がない。
焦る事なく、黒崎は携帯画面をタップするが、
「チッ」
画面に映し出された状況を見て舌打ちした。
急いで車に乗り込み、闇医師の元へと向かう。
到着すると、トランクを開けてバールを取り出す。
エレベーターに乗り込み、右手で地下二階へのボタンを連打しながら左手で電話を掛ける。
予想はしていたが、
『お掛けになった電話は…… 』
「チッ」
闇医師への電話が繋がらないことで、今日二度目の舌打ちが出た。
エレベーターが到着し、左手奥へズカズカと歩を進め、ノックする事もなくバールを扉の隙間へと嵌め込む。
額に血管が浮かび上がるほどに入れた両腕の力をバールに伝えると、
ギシシシッ……
掛けられていた古い鍵が歪み手を入れ込められるほどのスペースが出来た。
そのスペースに両掌を入れて力任せに引っ張ると、鍵が外れ、扉は壁にぶつかる大きな音を立てて開いた。
靴を履いたまま部屋の中へ。
霧子の腎臓を取り出した手術部屋。
「チッ」
黒崎は三度目の舌打ちをした。
霧子も闇医師も居らず、霧子体の中に埋め込んだ筈の小型GPSだけが血塗れの状態でベッド上に置かれていた。
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