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中から出てきたのは、白衣を着た中年男性。
「どうぞ」
眼鏡の奥にある細い目の下には大きな隈。
霧子は背中を押されて部屋の中へと入り、黒崎も素早くそれに続いて入ると、扉を静かに閉めて鍵とチェーンロックを掛けた。
案内された部屋奥は、ベッドと手術器具一式が置いてある。
「あの…… 」
急に怖くなり、今度は生唾を呑み込む音を消す事が出来なかった。
目の前にいるのは信用出来る闇医師だと告げた上で、
「大丈夫ですよ。
先程も言った通り、先生の腕は確かです。
なにせ、現役の外科医ですから。
帝王大医学部首席で…… 」
度がすぎる説明が始めると、
「黒崎さん、それ以上は勘弁してください」
闇医師は困った表情を見せてその先を止めた。
会話が途切れたところで霧子が尋ねる。
「あの……
手術は絶対に大丈夫なんでしょうか? 」
闇医師は霧子を足元から頭の天辺まで舐めるように見たあと、
「そんなに難しい手術じゃありませんよ、私にとってはね。
ただ、夜勤明けで手元が狂っちゃう可能性はありますがね」
ヒヒヒヒッと嫌な笑いを浮かべると、
「おい、分かってんだろうな」
黒崎のドスの効いた囁きがそれを止めた。
「あっ、はい、もちろん。
だいたい麻酔の時間も入れて三時間あれば終わります。
術後少し痛みは残りますが、通常通りすぐに動けます」
闇医師は少しビクつきながら、手術の流れを説明した。
「分かった。
三時間後にまた来る。
後は頼んだぞ」
黒崎は闇医師の肩をポンと一つ叩き、
「それでは術後に十万円をお渡しします。
頑張ってください」
霧子に微笑んだ。
悪魔のような微笑みは、「麻酔を打たれて眠るだけ、頑張るのは医者でしょ」霧子の心の内を言葉にはさせなかった。
黒崎が部屋を後にすると、
「さぁ、始めましょう。
ベッドに寝転がってください」
サージカルマスクとニトリル手袋を付けた闇医師の言葉に、
「……お願いします」
霧子は覚悟を決めてベッドへと上がった。
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