走り抜けろ八百万の神たち

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 沿道には参加していない神々、妖怪、都市伝説たちが応援している。声を張って応援すると近隣住民が「変な声が聞こえるけど何もいない、どうなってるんだ」と噂するので手を振ったり飛び跳ねたりと動作で応援する。 「最後のカーブ、ここは曲がりきれず転倒者が続出します! あ、龍馬をはじめ次々と転倒! この隙に後ろを走っていた者たちが追い越していく! まるでソルトレークオリンピックのブラッドバリーを思わせる展開です!」 「do a Bradbury、流行(はや)りましたね」 「流行ったのは海外ですがよくご存じで! この先は一直線、毎年抜きつ抜かれつのドラマが生まれます! あ、抜け出したのはダッシュババアだ! 神じゃないですよね!?」 「八百万の神は定義ないので、自分が八百万に含まれると言い張れば参加認めてます」 「優しい! 鬼の首を切り落とし二百日間晒したことから鬼晒(きさら)神社と呼ばれるようになった神様とは思えない!」 「よく言われますが鬼以外には優しいつもりです」  ダッシュババアは一気にトップスピードで走るが、しっかり着いてきている者がいた。 「あれは化け狸です! 神籬(ひもろぎ)神社に住み着き作ったおみくじがバズりすぎてる話題のたぬ吉です!」 「何で右手に包帯巻いてるんですかね」 「おみくじ作りが間に合わず作りっぱなしで腱鞘炎らしいです」 「嬉しい体調不良ですね。是非バイト雇ってほしいです」  たぬ吉は走る、懸命に走る。しかし、ダッシュババアには追いつけない。でも、絶対に叶えたい願いがあるのだ。負けるわけにはいかない。仕方ない、使いたくなかったが最終手段だ、と深呼吸をして前かがみとなる。 「おおっと!? たぬ吉が、(ビースト)モードだ! 二足ダッシュから四足ダッシュに切り替えたあ! 二足の時は某たぬき合戦みたいな見た目だったのに四駆のたぬ吉は鳥獣戯画猫又と狸のようなビジュアルだ、速い速い!」 「最初から四足で走ればいいのに」 「たぶん腱鞘炎の腕(足)が痛いからやりたくなかったんでしょう! 速い、 一気に加速だ! あっという間にダッシュババアを追い抜いて、本殿に……一位! たぬ吉が一位です!」 「冷静に考えてダッシュババアに勝てる狸って凄いですね」  走っていた者たちも、ギャラリーも、拍手を贈った。騒ぐとまた近隣住民から「見たんだよ! 俺は百鬼夜行を見たんだって!! 酔ってねえよ!」と通報されてしまうので静かに、厳かに。しかし、惜しみない拍手を。
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