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「まさか、まさか。そんな風に思ってないわよ。信じてるわ。ちゃんとアナタは出来る子だって」
あくまでも茶化す様に僕に言葉を投げる女。
でも、僕の腹は決まった。もう迷いはない。
「でも、ふふふっ。なぜそんなことを聞くのかしら?」
「当り前だろ。命が惜しくないのかよ」
僕の目的は最初からはっきりしている。この女のして来たことを後悔させたい。その上で、始末を付けたいと考えていた。
しかし、それは雲を掴むより難しいということは十分に分かった。
「私はね、別にどっちでもいいの」
「はぁ? そりゃどういう意味だよ」
だからこの女を終わらせることは完全に決めた。
でも命を惜しまない人間の命を奪うことに意味は見出せるのだろうか。
いや、意味はある。これで、多くの人間が助かる。
少なくてもその可能性は高くなる。それで十分な筈だ。
「貴方は自分の望みを叶える為に、こんな大それたことをしたんじゃないの?」
「はっ! 何一つしてこなかったアンタにそれを言われるとはな」
そうこの女は何もしなかった。
この国の中心にいて、最も大きく金が動せる立場に在ったのに。
商業区の時も。災害が起こった時も。
変異ウイルスによるハザードが起こった時も。
その他ありとあらゆることを言葉を弄して、マスコミを上手く使い、
全て誤魔化し、やり過ごし、何もしなかった。
動画配信の論客達と何一つ変わらない。
一つ、違うとすれば人の命がかかっていること。
「全く滑稽ね」
「どっちがだよっ!」
そして、この女が何一つ決断しないせいで、停滞させたせいで、多くの金が消えた。そのことが致命的になった。
途轍もなく多くの人や金が動く政治や行政ににおいて、ただ放置するという事が最も罪深い。
そのことで、多くの数字に出ない命が散っていった。
「私は望まれてここにいるのよ?」
「選んだ奴が悪いってか」
何かを決断し、実行すれば必ず結果が出る。
それは当然、成功も失敗もある。失敗して失う物は大きい。
ただ、一つ言えることは、どちらの場合でも学べるのだ。
それが必ず次に繋がる。例えそれがどんな結果だったとしてもだ。
しかし、何もしなければ、ただ消耗するのだ。
ただただ失うだけ。お金も、資源も、時間さえも。
得るものがない、などという生易しい次元の話ではない。
ただただ無くし、消失していくのだ。
そして、そのことそのものが致命的になっていく。
失敗した時ほどインパクトがなく、劇的な変化も見えないから軽視されがちだが、そのことが既に致命的なことだ。
「アンタが何も決断せず、何もしないで放置したせいで無くなった金がどれぐらいか知ってるのか?」
「私はそれを支持されている」
「ふざけた事を…」
「私はこの地位に就いてからずっと同じように振る舞って来た。
なのに、何度も同じことが出来た。つまり大衆はあーだこーだと不満を並べてはいても、私が何もしないことを望んでいるのよ」
「そんなわけないだろっ!」
思わず怒鳴りつけたが、女は眉一つ動かさない。
ただ微笑みながら言葉を返すだけだった。
「私を断罪するということは、アナタが救いたいと願う国民を断罪するということではないのかしら?」
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