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二人は精神的にダメージを負いながらも、互いに譲らず睨み合う。もはや相手が神の眷属だろうが、唯一彼女を異形から守れるニート陰陽師だろうが、互いに容赦するわけにはいかなかった。
「神無月だからって、眷属様がこんなところで油売ってていいんでしょうかねぇ? 水神様の留守を護るのがお仕事では?」
「いいえご心配なく。この地域のことは何処にいても感知できるので。だから今日は彼女の気配が感じられず、ここまで確認しに来たわけですから」
「じゃあ何ですか? 茜が白水神社のテリトリーを出るたびに、貴方は心配するわけですか!? そういうの人間界では“ストーキング”とか言って嫌われるんですよぉ!?」
「それこそご心配なく。我が神が社にいれば、全国同系列の神社ネットワークを使って、日本のどこに居ても彼女の気配は感知出来るので!」
「はい、それ完全にストーカー!!」
いつの間にか二人はその場に立ち、ぜいぜいと肩で息をしていた。目の前のテーブルには、忌一と白井に九対八の柿の種ポイントが並んでいる。
店内に二人の荒い呼吸音が響く中、内見を終えた小咲と客の男性が戻って来た。
「忌一君、留守番ありがとう。他にもお客は来たかい?」
「いいえ、誰も」
そう答えながらも、忌一の視線は白井から外れない。
「何だ……白井君まだいたのか。っていうか、まだ茜ちゃんのこと心配してるのかい?」
カウンターで客に契約書を渡しつつ小咲が言うと、「ええ、まぁ」と白井も視線を外さずに答える。どうやら先程の内見で、客の希望の物件が見つかったらしい。店に白蛇が居座っていただけあって、商売繁盛の効果は絶大だ。
「じゃあ本人に直接連絡して、何処にいるのか訊いたらいいじゃない」
小咲のその一言で、忌一と白井は目の覚めるような衝撃を受けた。それはまるで後頭部をバットで殴られたような衝撃だった。しかし次の瞬間には、二人を天と地に分けた。
「携帯…電話……か」
白井はガックリとソファに倒れ込む。
「あらあら。やはりその白い肌には、人間のハイテクノロジーは合いませんでしたかぁ」
忌一は得意げにスマホを取り出すと、鼻歌を歌いながらタップする。人間に化けることは出来ても、携帯の月額料金を支払うことは、一介の眷属にはハードルが高いのだろう。
スマホを持ち、さらには茜の連絡先を知っていることで、忌一には桜爺の柿の種ポイントが五つ入った。これはデカい。
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