11人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
LINEアプリを起動し、トーク画面から茜を呼び出す。そして『今どこにいる?』とメッセージを送った。が、待てど暮らせど“既読”は付かない。忌一の「あれ? おかしいな……。あれ?」という言葉で事態を悟った白井は、上体を起こしてスマホを覗き込む。仕方がないので今度は通話ボタンを押してみるが……
『おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、または電源が入っていないため、かかりません』
という機械的なアナウンスが流れた。
「電池切れたのかも。それか電源切ってるのかもしれないし。或いは電波が届かない場所にいるとか」
「まさか山奥の崖から足を踏み外して谷底へ……」
「考えすぎですよ!……いやでも、何か事件に巻き込まれてたら……」
二人は顔を見合わせ、血の気が引き始めたその瞬間、小咲の携帯からメール着信音が響いた。彼は最近耳が遠くなったとかで、大事な仕事のメールに気づかないことがあるので、音量を大きくしているのだと謝りながらスマホ画面をいじる。
「あ。茜ちゃんからだ」
「「何だって!?」」
「ほら」
そこにはLINEのメッセージで送られてきた画像が表示されており、温泉まんじゅうと最中が映っていた。そして『今友達と温泉に来てるんですが、店長はどちらのお土産の方がお好きですか?』という文章まである。
忌一は慌てて先程送った茜のトーク画面を見てみるが、まだメッセージに既読は付いていない。
「あ、これ僕知ってるよ。“既読スルー”ってやつだろう?」
「いや、これは未読スルー」
(……って言わすなよ!!)
今度は忌一がソファに倒れ込む番だった。それを見て白井は「無視されてやんの!」と無いはずの指を差す。
「まぁまぁ、二人とも。とにかく茜ちゃんが無事で良かったじゃないか」
苦笑しつつ小咲がフォローを入れるが、白井はそもそもスマホすら持っていないし、茜の連絡先を知らない。忌一に至っては、連絡先を知っていたところで未読スルーされる始末だ。
「どっちもどっちじゃな」
ソファに突っ伏し泣いている、不甲斐ない主の姿を見ながらそう呟くと、桜爺はコクコクと同意する龍蜷と共に、勝利ポイントとして並べた虚しい柿の種を、仲良く音を立てながら頬張るのだった。
<完>
最初のコメントを投稿しよう!