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「貴方、もう少しまともな恰好をしたらどうなの!」
「すみません、通り道で珍しい植物を見かけてしまって」
「それで、そのような草の束を抱えていますのね」
午後の陽射しに輝く金色の髪。流行りのデザインを取り入れたドレスに身を包んだ令嬢の前には、泥がついた服を払いもせずに微笑む素朴な青年の姿があった。
貴族御用達、予約を取るのも困難だと言われるカフェに、似つかわしくない組み合わせである。
季節によって景観を変える美しい庭を眺めながらお茶をいただける、たいへん人気のある席を確保できるのは、彼女が公爵家のご令嬢だからに他ならない。
そのヴィクトリア・オルランド公爵令嬢は、形のよい眉をひそめ、苛立ちまじりの刺々しい言葉を繰り出している。
対する青年はといえば、のどかな顔つきで自身が持つ草葉について語っており、その温度差に周囲は凍りついたように動けない。
「わたくし、帰らせていただきます」
「ですが、たしか秋の限定メニューが」
「そのような恰好で、皆さまがたの注目を浴びて、恥ずかしくはありませんの!?」
ギロリと鋭い眼光を向け、十八歳のヴィクトリアは、二十一歳の婚約者に言い放つ。
「場所を変えます。付いてきなさい、ハリー」
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