太陽と1輪の花

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 キーンコーンカーンコーン  お昼休み。いつものように、教室は、お弁当を食べるために席を移動する人、廊下は、購買に行く人、学食に行く人で賑わっていた。  そんな中、私は一人、廊下を歩いていた。  別にクラスが嫌いな訳でもない。友達がいない訳でもない。  私にはいつも行く場所があるのだ。  階段をのぼると左には非常口、正面には屋上のドア。いつもの風景、いつもの場所。屋上前の階段。そしていつもの……。 「一花、またお前来たのか?」 「陽〜」 「陽先輩だろ」 「誕生日1日しか違わないでしょ」  屋上の前の階段で私達はいつも並んで座って昼ご飯を食べる。  陽は誕生日が1日しか違わないのに1学年上の先輩。  出会いはまだ私がこの高校に入学したばかりの頃だった。 半年前 「日直は昼休みの間に社会科準備室に資料を取りに来るように」  4時間目の授業で先生が言った。  入学して次の日だっていうのに、名字が相沢で出席番号1番の私は日直にされてしまった。  私は昼休み、社会科準備室を探しまわていた。 「ここ、立ち入り禁止だぞ?」 「え?」  気がつくと左には非常口、正面には屋上のドア。  どうやら屋上に続く階段をのぼってしまったらしい。  階段にちょこんと座る男子に話しかけられた。 「ほら、ここの立入禁止の文字が見えないのか?」 「あ、ほんとだ。ってあなたも破ってるじゃない」 「俺はいいの」  階段にちょこんと座る男子は済ました顔で言った。 「なによそれ」 「それより、お前もサボり?」 「サボり?人聞き悪いこと言わないでよ」 「違うのか?」  階段にちょこんと座る男子は不思議そうに聞いてきた。 「社会科準備室に行きたいの」 「お前、方向音痴だな。反対方向だぞ」  笑われてしまった。 「昨日入学したばかりなの」 「あ、何。お前1年か。案内してやるよ」 「えっ?」  階段にちょこんと座る男子は着崩したネクタイを直しながら案内してくれた。  これが私と陽の出会い。この日を境に私は昼休み、屋上に続く階段をのぼるようになった。 「あ、今日チョコパンだ」 「んぁ?あぁ、お前にやるよ」 「いいの?!」 「ピザパンと間違えた」 「チョコとピザ、間違えるかな〜?」  なんだかんだ言って、陽は優しい。でも素直じゃない。 「あ、お前来週1週間はクラスで飯食えよ?」 「えっ?」 「俺ら2年は修学旅行なんだよ」  行事の書いたカレンダーを見ると2年生修学旅行と書いてあった。 「ま、行くか迷ってるけど」 「え、行きなよ」  来週も一緒にいられると考えると一瞬嬉しかった。 「集合時間早いんだよ。空港に7時だぞ?」 「高校の修学旅行は一生に一度だよ?」 「そうだけど」 「お土産よろしく」 「はぁ?」  陽は行くかも迷ってるのにとかブツブツ言ってる。  今日は月曜日。修学旅行前に一緒にいられるのはあと4日。  教室に戻ると何だかクラスの女子たちが賑わっていた。 「どうしたの?」  私は近くにいた友達に聞いた。 「あ、一花!一花は知ってる?」 「え、何を?」 「修学旅行の言い伝え!修学旅行前1週間の間に付き合ったカップルは永遠に結ばれるんだって」 「何その中学生みたいな言い伝え」  女子たちが騒いでるのはこれか。 「本当なんだって!校内一ラブラブで有名な3年の絵理奈先輩と榎本先輩だって、修学旅行前に付き合ったんだって」  私と友達が話していると近くにいた友達も話に割って入ってきた。 「えー、私は信じない。だって、修学旅行前に付き合って、修学旅行で別れたカップルいるじゃん」 「あれは、女も男も5股くらいかけてたからでしょ」 「ま、信じるか信じないかは一花次第だけど。狙ってる先輩いるなら早めに手を打っときなよ」  狙ってる先輩か。 次の日  狙ってる先輩。そのことが頭から離れなかった。 「そろそろ修学旅行の準備しないとなー」 「え、まだしてないの?」 「あぁ」 「カメラは?持った?」 「え、なんで?」  陽はキョトンとしてる。 「なんでって、普通持っていくでしょう。写真と共にお土産話聞きたいんだから」 「カメラ持ってねーよ」 「私のカメラ貸してあげる」 「なんで持ち歩いてんだ?」 金曜日 「それじゃあ来週は会えないから再来週ね。修学旅行楽しんできてよ」 「おう」  結局、何も言えなかったな。まぁ、言い伝えなんて信じてなかったけど。  さて、そろそろ5限が始まるし教室に戻ろう。 「一花」 「なに?」  教室に戻ろうと階段を降りようとした瞬間呼ばれた。 「あのさ……」  キーンコーンカーンコーン 「あ、予鈴」 「修学旅行帰ったら言う」 「気になるじゃんか」 「本鈴鳴る前に教室行け、ほら」 「陽は?教室行かないの?」 「俺はいいの」 「なにそれ」  1週間後  キーンコーンカーンコーン 「陽、おかえり」  1週間ぶりに来た屋上に続く階段。 「あれ、陽?いないの?」  陽の姿が見当たらない。  授業はサボっても、学校はサボったことなかったのにな。  あれ、紙?手紙?  屋上のドアの下に手紙があった。 『相沢 一花へ』  私宛。 『非常口のドアを2回、屋上のドアを3回ノックしろ。 水瀬 陽』  なにこれ。  あれ、まだ続き?でも消されててわからないや。  P.S?追伸?消されてて読めない。  まぁ、いいや。  非常口を2回、屋上を3回。  私は書かれている通りにノックした。  ガチャ  屋上のドアから鍵の音がした。 「陽、いるの?」  私はドアを開けた。 「一花」 「陽!」  ドアを開けると陽の姿が。  1週間ぶりに見る陽の姿。ちょっと大人っぽくなった? 「ほら、これ」 「なにこれ?」  陽に紙袋を渡された。 「お土産。欲しがってたろ?」 「えっ!いいの?開けていい?」 「あぁ」  中には可愛い腕時計。 「かわいい〜」 「そりゃあ良かった。あとこれ、カメラ」 「あ、そうそう、写真ちゃんと撮った?」 「撮ったよ。ほら」  陽は写真を見せてくれた。 「きれいな海〜」 「だろ?」  10枚くらいの写真を見せてくれたんだけどどれも海ばかり。 「って海しか撮ってないの?」 「何撮ればよかったの?」 「あ、1枚だけあった!Tシャツ姿の陽。」  Tシャツ姿の陽と友達。肩からタオルをさげて、楽しそうに写ってる。これだけ一緒にいるのに、制服姿しかみたことなかったから新鮮。 「満足か?」 「うん!ん?じゃなくて。ずっと気になってたんだから。修学旅行前、何言いかけたか」 「あぁ、あれか。内緒」 「なによそれ」  あんな言いかけておいてそれはないよ。 「気が向いたら言う」 「もう」  カメラでも見返すか。  私は貸したカメラのフィルムを見返した。  現像してないで面白いのないかな〜  あ、え、これは。 『P.S 好きだよ』  手紙の追伸。消す前だ。それと陽の寝顔。 「なにしてんだよ?」  陽がのぞき込んできた。 「陽」  私は涙がこぼれてきた。 「え!あ、なにこれ」 「この手紙?」  さっきの手紙の消えてた追伸。 「ホテルの机で書いててそのまま寝ちまって。友達に撮られた……みたい。」 「陽、嬉しいよ。陽」  私は陽に抱きついた。 「言い伝えだっけ?」 「え?」 「クラスの女子が騒いでた。修学旅行前なのに後になっちまったな」 「いいよ、そんなの。言い伝えなんて」 「そうだ、これもお土産」 「何かの種?」  陽にもらった時計が何周も何周もしたある日、陽にもらった何かの種は1輪の花を咲かせた。たっぷりの水とたっぷりの太陽の光を浴びて……。
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