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 わたしも休みを取って わたし、何度かあなたにくっついて海外をめぐった。  それは長くてもせいぜい三泊四日で、カンボジアや台湾、インドネシアなどの安宿に泊まるハプニング満載の旅だったけれど、あなたといっしょなら怖いものなどなにもなく、どれも最高に楽しくて夢のような時間の連続だった。    あなたのなかにはいつもあたたかなともし火が揺れていて、そのやわらかく心地よいともし火に、わたしは幾度なぐさめられ、励まされてきたかわからない。  あなたに抱きしめられると、それだけで身体のすみずみまでこのうえもない幸福感がめぐり満ち、心がやすらぎ、力もわいて、何ごともなんとかなるような気持ちになってくる。  わたしは、人と比べない生き方をするようになった。  年頃になった同い年の友人や後輩たちが、安定した収入を得ている男性と結婚しても、心が波立つということもなかった。  わたしには(けい)がいる。  結婚という形式を取らなくても、あなたといられれば幸せだ。  心からそう思っていたから。  わたしがあなたにお願いしていたことは、ふたつ。  ひとつは、旅から無事に帰ってくること。  もうひとつは、もし無事に帰ることができなければ、幽霊になってでもかならずわたしに会いにきて。  ただ、それだけ。    あなたの帰りを待ちわびながら、わたしは大好きな花を部屋に飾った。  スイートピンクの薔薇を一輪。    
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