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夜の光を湛えた瞳がエマを映す。
「エマ。君が好きということだ」
今度は、この国の言葉で。はっきりと、しっかりと。
(どうしよう。すっごく、うれしい)
それは形だけの婚約者がいたときには、感じたことのない感情だった。
エマもまた、じわじわと広がっていくそれを、しっかりと言葉に変える。
「わたしも、アベラルドさんが、好きです」
(これが、恋なんだ)
「ちょっとー、ふたりとも。早くしないと市場が閉まるわよー!?」
遥か先を行っていたレオンの大声がふたりの耳に届く。
エマとアベラルドは顔を見合わせた。
「行きましょうか」
「……そうだな」
そしてふたりは、同じ歩幅でゆっくりと歩き出した。
*
「おめでとう、アメリー!」
「エマのおかげよ。ありがとう、ほんとうに」
数日後、冒険者ギルドの更衣室。
アメリーは、これからフェリックスと『正式な』初デートなのだとエマに告げた。
「美味しいクッキーを作る人間は丁寧な人間だって褒められちゃったの」
エマが制服から着替えたのは、普段よりも華やかなワンピース。
大ぶりのイヤリングもよく似合っている。
「練習した甲斐があったわね」
「うん。岩だったら、間違いなく玉砕してたから」
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