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「父さんもレオンさんもすっかりその気ですから、よかったらどうぞ」
微笑みかけてもやはりアベラルドの表情は変わらない。
(だけど、分かってきたかもしれない。眉毛が動くのよね、アベラルドさん。さっきは困ってて、今はちょっと、喜んでる)
エマはその発見を、心のなかに留めておくことにした。
しかし隠しきれていなかったようで、アベラルドが首を傾げた。
「――」
アベラルドの唇がゆっくりと動いて、隣国の言葉を紡いだ。
聞き取ってしまったエマはぴたりと動きを止めて俯く。
「……あの、アベラルド、さん?」
「何だ」
「わ、わたしの母が隣国出身だという話はしましたよね? つまり、その、隣国の言葉はかんたんなものなら分かるんですが、その……」
耳まで真っ赤になったエマはしどろもどろ。
「今、なんておっしゃいました?」
アベラルドの口が半開きになる。
エマが理解したことは、アベラルドにとっても予想外だったらしい。
顔を横に向けて手で覆い隠したものの、エマと同じように頬があかく染まっている。
「『レオンと恋仲でなくて安心した』」
「あの、それって、つまり……わたしの勘違いでなければ……その……」
アベラルドは吹っ切れたように、エマと向き合った。
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