婚約破棄されたって、わたしの価値は変わりません。

1/42
前へ
/42ページ
次へ
「婚約を破棄したいんだ、エマ」  ここは、街で人気のレストラン。  待ち合わせの時間きっかりに現れた男は、心底申し訳なさそうに頭を下げた。  静かに席に座っていたエマはぽかんと口を開けて、黒縁眼鏡の奥からじっと男を見上げた。 「……はい?」 「おれのことを誰よりも愛してくれる女性が現れたんだ。おれも、彼女に一生を捧げたい」  エマとフランクは親同士の決めた婚約者だ。  フランクは金髪碧眼、身長も高く、整った顔立ちをしている。さらに、軽妙なトークは世の女性たちを虜にしてきた。  幼なじみであるエマは、それをずっと隣で見てきた。  しかし、彼には婚約者(エマ)という存在がいたから表立って行動に移す女性はいなかった、はずなのだ。 (最近連絡を取ってもなかなか返事がこないし、いつかはそうなる気がしていたけれど)  エマは膝の上でぎゅっと拳を握った。  流行好きで派手なフランクに対して、エマの容姿は『地味』。  赤毛はくせがひどいし、視力が悪いため分厚い眼鏡が手放せない。おしゃれや流行りにも興味が薄い。 「どんなひと?」  エマが尋ねると、フランクは顔を上げた。  最初の暗さが演技だったかのように、ぱぁっと表情が明るくなる。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

225人が本棚に入れています
本棚に追加