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「婚約を破棄したいんだ、エマ」
ここは、街で人気のレストラン。
待ち合わせの時間きっかりに現れた男は、心底申し訳なさそうに頭を下げた。
静かに席に座っていたエマはぽかんと口を開けて、黒縁眼鏡の奥からじっと男を見上げた。
「……はい?」
「おれのことを誰よりも愛してくれる女性が現れたんだ。おれも、彼女に一生を捧げたい」
エマとフランクは親同士の決めた婚約者だ。
フランクは金髪碧眼、身長も高く、整った顔立ちをしている。さらに、軽妙なトークは世の女性たちを虜にしてきた。
幼なじみであるエマは、それをずっと隣で見てきた。
しかし、彼には婚約者という存在がいたから表立って行動に移す女性はいなかった、はずなのだ。
(最近連絡を取ってもなかなか返事がこないし、いつかはそうなる気がしていたけれど)
エマは膝の上でぎゅっと拳を握った。
流行好きで派手なフランクに対して、エマの容姿は『地味』。
赤毛はくせがひどいし、視力が悪いため分厚い眼鏡が手放せない。おしゃれや流行りにも興味が薄い。
「どんなひと?」
エマが尋ねると、フランクは顔を上げた。
最初の暗さが演技だったかのように、ぱぁっと表情が明るくなる。
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