時間経過の真実

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「私も同じなんですよ。朝、布団から出られなくて、あと5分だけが、ずるずる30分ぐらいになっちゃって」  本当は2時間、3時間はざらだが、とりあえず控えめに30分と言っておこう。 「あらあ、30分ぐらいなら、いいじゃない。私なんて1時間なんて当たり前よ」  おお! 本当にこのマンションのごくピンポイントに重力異常が発生しているんだ。 「いや、実は私も、2時間とか……」 「大体、主人が朝早いでしょ? 下の子も幼稚園だからお弁当いるし、本当は朝5時に起きればいいんだけど、ついつい寝坊しちゃって、いつも朝6時なのよ。恥ずかしいわあ」  朝6時? あ、あの、あなたは重力異常同士かと……。 「それにね3人目もできたみたいで、そろそろこのマンションじゃ、狭いから、引っ越そうって考えてるの……あ、上の子そろそろ学校だから、じゃあね」  2階の女の人は、走って階段に向かっていった。  妊婦さんなのに、大丈夫なのだろうか。  2階の家族も私たちも、10年前は、2人だった。  が、10年の間に2階の人は2人から4人に増えた。もうすぐ5人になるらしい。  私たちは10年前も今も2人のまま。  2人を3人にしたくて、私は病院に通った。仕事もやめた。  それでも、2人は2人のままで、いつのまにか病院に通うことをやめた。  引っ越したばかりの頃は、ごみ出しだって、掃除だって、食事の用意だって私がやってたっけ。  いつのまにか私だけ、時間が止まってしまった。  集積場の前でしゃがみ込み顔を覆った。  何年かぶりに頬を一筋の液体が流れる。    あと5分だけください。  そしたら重力異常とはサヨナラするから。  顔を上げると、向こうの階段で、彼が腕くみしたまま私を見つめていた。
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