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「おい、聞いてんのかよ。てか、どうした? そんな深刻そうな顔してさ。なんかあった?」
過去に彼女と話した思い出に浸り込む俺を見て、小松が不思議そうな顔をしている。罪のない顔で。
こいつは何も知らない。俺の恋路を邪魔したことを。それが余計に憎い。
「あ、悪い。なんか急に思い出したことがあって……」俺はあることをぼんやりと思いつき、話を続ける。「おまえ知ってるか? この建物って何年か前に屋上から飛び降りたやつがいるんだ」
ちょうどその日の朝、たまたまニュースでどこかのオフィスビルの映像が流れ、その屋上から飛び降りた人のニュースを見た。
「なにそれ。そんな話、聞いたことないけど」
当たり前だ。俺の作り話なんだから。
「たまたまこのビルで働いているやつが話してるのを聞いたんだ。その飛び降りがあってから、奇妙なことが起こるらしい」
「奇妙なこと?」
「毎年、同じ日に後追いするやつがいるんだって」
「うそだろ。何、ほんとなのか? なんか背筋が寒くなってきた」
小松は顔をしかめ身震いして見せた。
「飛び降りるやつの原因は共通していて、失恋が原因だって」
「そんなことで飛び降りるやつがいんの? 理解不能。意味わかんね」
小松は眉を寄せ、唇の端を歪めた。その顔がどうしようもなく、俺を不快にさせた。失恋の元凶のくせに。
「なんかいやなこと思い出しちまった。すまん、俺、ちょっとトイレに行ってくるわ」
俺は小松に断るとトイレに向かった。途中、振り返るとやつは睨むような顔をしてこちらを見ていた。
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