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「あなたは今どこにいますか?」
パニックに陥っていた俺は、不意に鳴ったスマホに出てしまった。声だけで美人と想像させる、色香を漂わせた言葉が耳を打つ。
しかし絶賛パニック中の俺は荒々しく毒づいた。「はぁ!?センター試験、いや、今は違う、大学共通テストの会場だよ!五浪の俺はセンターから受けてんだよ!っていうか、それどころじゃないんだ!」
鉛筆もシャープペンシルも消しゴムもない。買いに行く時間もない。借りる時間も友人もいない。それが、たった今俺を混乱させている原因だ。
「昨日の夜、気合を入れすぎたんだよ…。鉛筆全部とがらせて、シャープペンシルと消しゴムと一緒に神棚に備えてそれっきり…。俺の手元には空の筆箱しか無いんだよ!」
ただ電話をかけてきただけの赤の他人に、俺は思いっきり怒りをぶちまけた。
「まあ、それはさぞお困りでしょうね。」
電話の主は俺からのいわれのない怒りに対して、平然としている。なんなんだ、いったい。
「わかりました。困難にある人を助けるのが女神の使命です。さあ、何も心配せず、筆箱をお開けなさい!」
妙に力強く言い切った後、かかってきた時と同じように唐突に電話は切れた。
なんだよ、こんな大変な時に…。ん?筆箱に、厚みが?いや、そんな訳ないだろ、さっき空っぽなのを確認したばかりだ。でも、今の電話。自分を女神とか言っていたぞ?
恐る恐る筆箱に手を伸ばす。重みが、ある。明らかにさっきとは違う。細い棒状のものが入っている感触がある!
おいおい、マジか!?女神様、あ、ありがとうございます!!
急いで筆箱を開ける。筆記具らしきものがある!
中には3色ボールペンが1本、油性マジックが1本、修正テープが1つ。
女神様…。このテスト、マークシートなんですよね…。
虚空を見つめて放心した後、おもむろにスマホを机に叩きつけた。
と、誰かに肩を叩かれた。そこで我に返る。どうやら試験官のようだ。
「キミ、さっきから何を騒いでいるのかな?試験は始まっているんだ、ちょっと別の部屋に移ってっもらおうか。」
有無を言わさず、俺は説教部屋に引っ越しを余儀なくされた。
さようなら五浪生活。そして、よろしく、六浪生活。
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