メリーさん

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 大学での退屈な抗議中、男は空を眺めたり居眠りをしながら過ごしていたのだが前の女子学生が話す会話に耳を奪われた。 「そういえば聞いた?あの人大学に来てないらしいよ。」 「宝くじが当たったって噂だよね、買ってるところを見た人が居たんだってさ。」 「そうそう、しかもそれがメリーさんの幸運らしいってね。」  女子生徒たちは会話を続け、そして会話はいつの間にか現在放送中のドラマの話へと移っていった。   話を要約するとどうやら都市伝説の『メリーさんの電話』の逆バージョンらしい。とある電話番号に電話するとメリーさんが出るらしい、そしてこう問いかけるのだ。『今どこにいますか?』と。そしてメリーさんが答えた場所に近づけば近づくほど幸運が訪れる、そんな噂話だった。  そのときは何気なく、こんな面白い話しもあるのか程度に思っていた。しかし講義後も、一人暮らしの自宅へ帰った後もその内容が心に残り続けていた。調べてみるとどうやら特定の電話番号があるらしい。法則があるのか、はたまたただのデマなのか、数種類の電話番号とも思えない数字の羅列がメリーさんの電話番号として噂されていた。しかし当然、どの電話番号も繋がることはなかった。  いくつかの電話番号を眺めている内に何となく、ある法則があるように思えてきた。男は法則を意識しつつ数種類の予測を作り上げ、それぞれに電話をかけてみた。そしてその中で一つだけ、コール音が鳴るものがあったのだ。 『トゥルルルル、トゥルルルル。』  規則的なコール音が鳴る度に緊張が高まる。もしも見知らぬ相手なら何も言わずに切ればいい、そう自分に言い聞かせながら電話の相手が出るのを待った。 『ガチャ』  電話相手が出た、そして相手はかわいらしい声でこう言うのだった。 『もしもし、あたしメリーさん。』  出た!と思ったと同時に恐怖が襲いかかった。しかしせっかく考え抜いて導き出した電話番号だ、勇気を出してメリーさんに質問する。 「メリーさんですか?今どこにいますか?」 『今、私は北海道にいるの。』  そう答えがきたと思えば電話は切れてしまった。  思わず笑いがこみ上げる。ずいぶんと雑な場所じゃないか、そしてすごく胡散臭い。たぶんこれはランダムで場所を答えるように誰かが作った機械音声だろう。通話が終わってみればそう思えるほどにチープな代物であった。  気が抜けた男は空腹を覚え、メリーさんのことなどすっかり意識もしないままに買い物へと出かけた。  スーパーで買い物を済ませると、ちょうどその日は抽選会の日であった。千円の買い物で一回の福引きが出来て、商品はそのスーパーのみで使える商品券とささやかなものであった。  男の買い物は千円を超えていたため抽選を行うことが出来た。いつも通っているスーパーで、何度か福引きも引いたことはあったがいつもハズレであった。しかし今日は違った、一番下ではあるが5等に当選したのだ。結果は百円分の商品券であった。  商品券を手にして帰宅した頃に思い出す。もしやこれは、と。  調べてみるとそのスーパーは自宅から北海道に向いた方向に建てられていた。  まぐれだろうと思う気持ちともしやと思う気持ちがせめぎあい、男は度々、出かける前にメリーさんに電話をするようになった。  メリーさんはいつも違う場所にいた、国内の時もあれば国外の時もあった。知らない地名が出る度に調べるため海外の地理に少しだけ詳しくもなった。そしてそれらすべて、例外無くその方向に向かったときには幸運が訪れたのだ。しかし距離が離れているためかささやかな幸運程度で、お金がプラスになるようなことはいっさい無かった。  どうやったら宝くじが当たるほどの幸運が訪れるのか。そんなヤキモキとした考えをしながら、出かける前のルーティンワークとなったメリーさんへの電話をしたときだった。ついにメリーさんが私の知っている地名を言ったのだ。その場所は大学からさらに二駅ほど行った先、大型商業施設が建ち並ぶ場所だった。  男はすぐに電車に乗り、メリーさんの告げた場所へと向かった。念のため、あるいは今後のためにと電車に乗る前に一枚の宝くじを買っておいた。これでもしメリーさんの付近で買った宝くじが高額当選したとき、これこそメリーさんの幸運と信じることが出来ると思ったからだ。  電車を降りてすぐにメリーさんへと電話する。メリーさんは普段と違い、その地域でより詳しい場所を告げた。  男はドキドキしながら、そして周りにどんな幸運を貰えそうな場所があるのかをチェックしながら目的地へと向かった。  目的地は商業施設の裏手側、人気は少なく寂れた印象がある場所だった。男は周囲を見回すが、幸運が訪れそうな場所は特に何も見つからなかった。  再度メリーさんへ電話してみたものの電話は繋がらない。男はここで初めて恐怖を思えた。もしもメリーさんが本当は都市伝説と同じ恐怖の存在であったとしたら・・・  吹き抜ける風がより冷たく感じ、人気の無さとカラスの鳴き声が恐怖を助長した。  ここから逃げ出そう!  そう思い足を駆けようとした瞬間に電話が鳴った。急停止をして思わず転びそうになりながら、電話の相手を見る。  おそるおそる着信を見ると、そこには大学での見知った名前が映し出されていた。  思わず安堵する、とにかく誰かと喋って恐怖を忘れたい。そんな思いで電話に出た。 「おう、どうした?なんか用事?俺さ、今ちょっと面白いことしててさ、それが・・・」  笑いながら話をするが相手の声を聞いて忘れようとしていた恐怖が襲いかかってきた。 『あたしメリーさん。今あなたの後ろにいるの』  大学での退屈な抗議中、女はネイルを眺めたり化粧ポーチを整理したりと過ごしていたのだが前の男子学生が話す会話に耳を奪われた。 「そういえば聞いた?あいつ大学に来てないらしいよ。」 「宝くじが当たったって噂だよな、買ってるところを見た人が居たんだってさ。」 「そうそう、しかもそれがメリーさんの幸運らしいってな。」
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