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こんなこともあった。先述した「失恋曲」のマスカラに憧れた小学生の私は、母の化粧箱からこっそりと抜き取って使ってみたことがあった。
もちろんうまくできるはずもなく、固まったまつげと、化粧すらしたことがない幼い顔に私は失望したのだ。母は笑って思い出話にするけれど、私にとってはマスカラへの冒涜行為のように感じられた。
そんなことを思い出しながら、私はついにデパートにマスカラとビューラーを買いに行った。二つ合わせて二千円にも満たない安いものを買って帰路に着いた。
誰もいない部屋で鏡に向かったときは緊張した。長年憧れた自分だけのマスカラをするときは、ひと際汗をかいたような気がした。
鏡を見ると自分がいた。綺麗でも可愛くもないけれど、少し大人になった自分がいた。そして何だか満ち足りた気分だった。
私に憧れと向かい合うチャンスをくれた友人にとても感謝した。
それから毎朝、私は欠かさずビューラーとマスカラをして、少し変わった自分を見て嬉しくなるのだ。そうして、なんてことない私の日常に溶け込んでいくのだろう。
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