01 動くホウキ

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(しかも、なんか無駄に偉そうだし)  ラズリの語った「魔法体系の歴史」を聞いて、ぶつぶつと呟いているホウキを眺めながら、独りごちる。  祖母・グリシナは、ラズリのことを気にかけていた。どうしたって先に死んでしまうであろう自分は、孫になにを残せるのかを考え、彼女が持っているすべてを教えてくれたと思っている。  仕事に関しては決して甘くなかった祖母は、それなりに厳しかったし容赦もなかったけれど、だからといってこんな遺産を残していくだなんて。 「小娘、おそらく吾輩の身体は朽ち、魂だけの存在となっていたところで、この憑代(よりしろ)を得たと推測する」 「えーと、いったいどれぐらい昔なんですか?」 「知ったことか。貴様の言い分を考えても、吾輩が生きていた時代から五百年は経っているというではないか、ふざけるのも大概にしろ」 「いや、わたしに怒られても。そもそも、どうしてうちの倉庫に?」 「倉庫というが、ここは店か? なにを売買している」 「うちは修理屋です」  魔具を扱う店にも種類があり、新しいものを売る店と、修理を主とする店に分かれる。  前者は魔術、あるいは魔導の有資格者が在籍しておらねばならず、ラズリのように個人商店では人員の確保が難しい。有資格者を雇うには、お金がかかるのだ。  そしてまた、資格を得るためにもお金がかかるため、魔力があったところでそこを志すものは少ない。  だが、修理店にも利点はある。  魔具は基本的に長く使えるものであり、術式を直せば問題なく使えるのだ。  新しいものは値が張るため、よほどのことがないかぎり買い替える者は少ない。  耐火耐震など、家屋自体に掛けられた術もあり、建物などは簡単に新しくできるものでもなく、仕事には事を欠かない。 「店は長いのか」 「どうでしょう。亡くなった祖母が始めた店ですし、長いといっても百年も経っているわけじゃないですよ?」 「ふん、修理師というのであれば、吾輩の身体もまた、損傷を負ってこちらへ運ばれたかもしれん」 「え、ってことは――」  あの倉庫にかつてミイラがあったということだろうか。  想像して、ラズリは身体を震わせた。  やだ、夜とか怖くて近づけない。  古いものがたくさんあるから近づかないようにと、祖母に言われていた。  ちからの安定していない幼い子どもは、魔力干渉を起こしかねないからということで、それだけ「いわくつき」の品が多かったと推測される。 (おばあちゃーん、ちゃんと処分しといてよー)  どうすればいいのか、わからない。  道具の直し方は学んだけれど、そこに魂が宿って意思を持って動いてしゃべるだなんて、聞いたことがない。 「おい、なにをぼーっとしている。聞け」 「な、なんでしょうか……」 「吾輩が目覚めたのは、貴様に声をかけられたからだ。ならば、なにかしらの意思があるのだろう。つまり、ここで吾輩がなすべきことがある」 「はあ……」 「貴様は我が(しもべ)として仕え、天の意思に従うことだな」 「しもべ?」 「忠実なる下僕だ。ひとまずは腹が減ったな、用意しろ」  え、食べるの? どこから? なにを?
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