揺らぐ

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ただ私の親も何も好き好んでこの名前をつけたわけじゃない。 薄井という苗字は母の旧姓で、母が離婚する前、私が小学生の頃、私の名前は大木(おおき)サチだった。 欧米風に言ったらサチ・オオキ。 でも子供の頃も幸多き人生だった訳ではなく、その頃から私はずっと不幸体質の陰キャだったので、名前はあんまり関係ないと思っている。 「薄井、ついてきな」 そう言って先に歩き始めた龍崎さんの後ろを付いて行く。 サービス残業という名の時間外勤務で、もう夜8時を回っている。 早く帰って和紙で造花を作る内職をしなきゃいけないのに…。 あれ、花一つ作って5円だから、数が勝負なんだけどな。 龍崎さんは薄暗い廊下を抜け、人気のない階段下の、かつて倉庫として使われてた小部屋に入って行く。 その部屋の放つ空気のあまりの不気味さに、私は一瞬たじろぐ。 このままバックレようと回れ右をしようとした瞬間、振り返った龍崎さんに「おい、早く入れ」と促されてしまった。 私は覚悟を決めて、その部屋に足を踏み入れた。 部屋に入ると、不気味さの原因がわかった。 明かりの代わりに、何か蝋燭の火? いや、これアルコールランプだ。 アルコールランプの青白い炎が揺らめいている。 そして、誰もいないと思ったその部屋には、先客が二人。 一人は、龍崎さんの手下的存在の、安さん。彼女も龍崎さん以上の“ド”ヤンキーだ。
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