2人が本棚に入れています
本棚に追加
ただ私の親も何も好き好んでこの名前をつけたわけじゃない。
薄井という苗字は母の旧姓で、母が離婚する前、私が小学生の頃、私の名前は大木サチだった。
欧米風に言ったらサチ・オオキ。
でも子供の頃も幸多き人生だった訳ではなく、その頃から私はずっと不幸体質の陰キャだったので、名前はあんまり関係ないと思っている。
「薄井、ついてきな」
そう言って先に歩き始めた龍崎さんの後ろを付いて行く。
サービス残業という名の時間外勤務で、もう夜8時を回っている。
早く帰って和紙で造花を作る内職をしなきゃいけないのに…。
あれ、花一つ作って5円だから、数が勝負なんだけどな。
龍崎さんは薄暗い廊下を抜け、人気のない階段下の、かつて倉庫として使われてた小部屋に入って行く。
その部屋の放つ空気のあまりの不気味さに、私は一瞬たじろぐ。
このままバックレようと回れ右をしようとした瞬間、振り返った龍崎さんに「おい、早く入れ」と促されてしまった。
私は覚悟を決めて、その部屋に足を踏み入れた。
部屋に入ると、不気味さの原因がわかった。
明かりの代わりに、何か蝋燭の火?
いや、これアルコールランプだ。
アルコールランプの青白い炎が揺らめいている。
そして、誰もいないと思ったその部屋には、先客が二人。
一人は、龍崎さんの手下的存在の、安さん。彼女も龍崎さん以上の“ド”ヤンキーだ。
最初のコメントを投稿しよう!