誰そ彼への想い

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「はっはっは、しょぼくれた顔をしおって手の早い奴よの! まぁその素直さは良い良い、ともかく一度ぐらいは花のお江戸へ行くのが良かろうよ――」  愉快げに笑いながら、将軍のお膝元、花のお江戸の面白さを名君は語る。 「――わが領地吉良庄も文化教養には負けておらぬがの、歌舞伎や浮世絵等の面白さ、大衆俗文化の発展は江戸に敵わぬ・・・・・・わが領の文化は儂の影響が大であろうが、ちと高尚過ぎるでの。そして何より、江戸は食い物が美味い!」  美味なる寿司や天ぷら、そして見た目や味に工夫を凝らした菓子の素晴らしさを耳にしては、もう万太郎の心に鶴屋やおせんへの未練はない。 郷里に戻ってからの将来を考えるにせよ、江戸のお菓子を勉強してから鶴屋に婿入りした方が店にとっても良かろう、現代でいうところのウィンウィンだ。
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