誰そ彼への想い

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姉弟仲が悪いわけじゃないけれど、おせん同様、大人しい弟は気が強い嫁の尻に敷かれっぱなしで、姑として手綱を取るべき母はとうに亡くなっていたもんだから、鶴屋は義妹の天下なのである。 口惜しく苦々しく思ったところで、気弱で大人しい出戻り小姑には、気が強くずる賢くて美しい、元気いっぱいな若い女に逆らう術なぞないのであった。 「・・・・・・そういえばあれ、亀沢様は今どこにおられるんじゃろうの?」  中気を患い床につき、少し惚けた父は娘の顔を見れば繰り言のように問う。  こっちが知りたいわと内心おせんは思いつつ、父にしてみれば娘の行く末を案ずるがゆえ問うのだろうから、殿様の江戸屋敷ですよと都度優しく答えた。
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