誰そ彼への想い

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 ロクな扶持(ふち)も貰えないのに滅私奉公はもう嫌だとか、貧乏人に買えない好物の甘いお菓子が食べ放題だとか、ショボい男の目論見はどうでも良かった。 こんな女でも必要としてくれる、親族からの押し付けではなく、自らの意志で嫁にしたいと言ってくれる、おせんにはただそれが嬉しかったのである。  愛と呼ぶにはショボ過ぎるにせよ、目的と心を通わせ合った二人は早速結婚の意志をおせんの父に告げ、大歓迎で受け入れられた。 親にも祝福され、結婚前提で付き合い始めた二人の仲は順調そのもの、おせんも今度こそ幸せになれると薄い胸をふくらませていたものだ。  侍の身分に(こだわ)った万太郎の両親は貧乏がたたってか、もうこの世にいない。
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