誰そ彼への想い

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二人が夫婦(めおと)になるのを阻む障害は何も無かった、元々は殿様である吉良義央が冗談半分に勧めた縁だから、万太郎もそれに従ったようなものなのである。  鶴屋への用を言いつける際、吉良公は下侍にかような事を言い加えた。 「鶴屋の主人がお前の事を褒めておったよ、婿にしたいほどじゃと。下侍なぞでいても貧乏が代々続くだけじゃし、お主は町人になった方が良かろうのぉ」  当家を去る際には祝儀も弾むゆえと、名君は呵々(かか)と笑ったものだ。  吉良義央としては小器用な万太郎に去って欲しいわけではなく、鶴屋からの礼状にそう書かれていたから、愉快な冗談として洒落込んだだけだった。
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