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その手はカッターナイフを握っていたが、このリボンを切るためだろうと思って、特に驚かなかった。
ーそして次の瞬間、そのカッターは、リボンではなく、萩原自身に向けられた。冷たい刃が、自分の首に食い込んだ。
「え、何...してるんですか?あの、それ、リボンじゃないですよ?」
必死に弁明するが、カッターナイフの持ち主は、なにも答えない。カッターナイフも、首から離れない。
後ろの「誰か」の息づかいが、カッターナイフにかかる力が強まるにつれて、どんどん荒くなっていく。
何かおかしいことに気づいて、後ろを振り返ろうとするが、赤いリボンは萩原の手に、足に、しっかりと絡みついて、身じろぎすら許さない。
...もしかして、このカッターナイフは、本当に...!
「やめ...っ」
「やめろ」、といいかけた瞬間、首に鋭く痛みが走るのを感じた。
その痛みは、鈍く、波のように押し寄せては引くのを繰り返しながら、身動きできない自分の体を、赤い色をしているであろう生暖かい液体で濡らしていく。鉄臭さに包まれながら薄れる意識の中で、つい最近亡くなったという、見回りの前任のことを思い出した。
...刃物どころか、血溜まりすら残さずに...
そこまで思い出したところで、意識が暗転した。
ー溢れた血は、すべて、赤いリボンに吸い取られていった。
少年と、その赤さを増したリボンが屋上へと戻っていった後には、萩原の、指を切り取られた死体が、横たわっていた。
ーやがて朝日が、萩原に残っていた夜の闇を、ゆっくりと洗い落としていった。
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