【2000字掌編】歴史書に、僕の悲鳴は残らない

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 革命を誇りとする市民に投石されぬよう、僕はずっと隠れ暮らしていた。立場を主張できるロベールと対話したい誘惑に、急流に足を踏み入れる危うさを感じて、僕は頭を振った。 「革命後も富む者が貧しい者から搾取し、健康な者を病むまで働かせる。今やこの国は、腐った果実を量産する朽ちた樹です」 「何が言いたい、君は?」 「力を取り戻したい。そうは思いませんか?」  彼が言わんとすることの危険性に、僕は声を潜めた。 「父君の事は気の毒に思う。しかし君の気の迷いを、僕の中だけに留めさせてくれないだろうか」  僕の忠告を無視してロベールが一歩踏み出す。
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