【2000字掌編】歴史書に、僕の悲鳴は残らない

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 止める間もなかった。  ロベールは鞄から林檎の代わりに、鈍く光る物を取り出す。 「例えば、あなたの受け取らなかった林檎が……」  彼の手に握られた、僕の拒絶の意思。  パンッと、耳を突き刺す乾いた音。  飛散する窓ガラス。透明な残響。  けたたましい警報の音。 「ほら、凶器に生まれ変わる」  ガラスの破片が、壊された平穏を照らし乱反射する。異変に気付いた職員に催涙スプレーを噴きつけ、ロベールは僕の腕をつかんで逃走する。  混乱する市庁舎を飛び出した僕たちを、血のような夕焼けが包み込んだ。
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