【2000字掌編】歴史書に、僕の悲鳴は残らない

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 何が王孫だ、人々の明日さえ守れやしないのに。  短く神に祈り、僕は派手な動作でブレザーの内ポケットに手を入れる。警官が大きく口を開き慌てて、被害者に見えた少年に銃を向けた。  僕は武器など持たなかったが、はったりは十分効いた。    重なる銃声。ロベールの狂った高笑い。  焼け付く痛みとともに、僕の身体は濡れた血の温かさに包まれた。  もし、僕を利用する者が現れたなら。とうに覚悟は決めていた。  血を流すのは僕一人で十分だ。  聞こえているのはきっと善良な市民の悲鳴で、僕じゃない。  崩れ落ちた僕に、転がってきた林檎がぶつかった。熟して艶やかな林檎を、鼓動の止まりそうな胸に抱きしめる。  ロベール、まだ腐ってはいない。心の叫びが届く自由に、僕は殉じる。     <了>
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