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『二〇XX年 十月 三十日』
Iー〇〇2が死んだ。
睡眠中に突然首が千切れたのをこの目で確認した。
Iー〇〇2の死体を培養槽から取り出したとき、Iー〇〇1はそれを見て絶叫、後に同じく死亡。
この世のものとは思えない醜い声だった。
ともかく、今日で貴重な被験体は残り一つとなってしまった。
『二〇XX年 十一月 五日』
Iー〇〇3は著しい成長を遂げている。
外見、生態共にヒトの乳児によく似ているが、皮膚の細部――具体的には指先や外性器に癒着が見られる。
『二〇XX年 十一月 十七日』
こちらが微笑むと、笑顔を返す。
手を振れば、全身を活発に動かして応える。
今では慈しむように愛でる研究員も散見される。
かくいう私もその一人であるが。
『二〇XX年 十二月 一日』
市川研究員が、培養室で死亡していた。
ここ数日の彼女はIー〇〇3に心酔していた様子だった。
Iー〇〇3を盗み出そうとして、培養槽の電源操作を誤り感電死したと予測される。
幸い、Iー〇〇3は無事だ。
それにしても市川研究員のことは残念だ。
美貌と知性を兼ね備えた彼女に憧れる者も多かったのに。
『二〇XX年 十二月 二十四日』
クリスマスイブだ。
クリスチャンなど一人もいないくせに、今年に限っては浮かれた空気が漂う。
女性研究員数名はIー〇〇3の培養槽に飾り付けを施していた。
食べられるわけでもないのにケーキを用意する者もいて、Iー〇〇3はとても喜んでいた。
皮膚の癒着もなくなり、こうなってはヒトと何ら変わらない。
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