アオイとヨウスケ たまにノン

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 病室に戻ればノンが「交代ね」とお父さんと出かけていき、お母さんと俺がアオイの傍にいる。  俺はアオイの手を握り額をつけ、また願う。  早く早くと。  一時間もしない内にノンとお父さんが戻ってきて、カーテンで仕切った小さな空間は一気に騒がしくなる。小声で話しているはずなのに、流石親子というかご両親もノンも「絶対目覚めるから」と海外出張の話をしている。  韓国に一週間の予定だった出張が今回の件で四日で中止になり、アオイの退院と同時に今度は一年の予定でまた韓国に行くと決まったとお父さんが愚痴を言っている。今度はついて行かないと言い張るお母さんに、頼むこの通りだと頭を下げるお父さんが目の端に写る。  アオイ、お前のお父さんもお母さんもそしてノンもここにいるよ。だから早く目を覚まして。  そう願って強くアオイの手を握る。  ノンがスマホで動画を撮っている。可愛い弟のためなら容量に際限はないと言い切り、目覚める瞬間を撮りたいと病室に入った瞬間から起動中だ。「思い出よ」とどちらとも取れる言い訳をして真っ赤な目で笑う。  心配しないわけが無い。みんな必死で抑えているんだ。抑えきれてるか不安だが俺だってそうだ。多分今タガが外れたら泣きわめいてすがりついて、大変な事だっただろうと思う。  それを必死に押し殺してただただアオイの手を握る。  何度目かの涙がアオイの手の甲を濡らしたその時、弱く、それでもしっかりと俺の手を握り返す感じがした。 「アオイ!アオイ!」  何度も呼びかけて、うっすらと目を開けたアオイに堪らずベッドに突っ伏して大泣きしてしまった。  アオイの「泣き虫」という掠れた声がして、また泣いてしまう。  その後のアオイが目を見張るほどの回復みせ退院したのは一ヶ月後。そしてアオイのお父さんが一人寂しく海外出張に向かったのはアオイの退院からさらに一週間後のことだった。  そしてちょうどその日、ノンのSNSに写真がアップされた。それはアオイの手を握る俺の頭にアオイの手が乗った、あの日の一コマだった。 『# 手をつなごう』のタグに『キセキ』の一言を添えて。
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