タクヤ

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タクヤ

 夜の情報番組は何時でも暗いニュースが多い。 【六歳の少女が虐待により・・・】 【薬物使用の疑いの男が乗用車で歩行者に・・・】 【モラハラによるDVに耐えかねて・・・】  一日の仕事を終えてテレビをつけて、流れてくるニュースにうんざりする。  胸を痛めるような時期はもう過ぎ去った。他人の不幸を喜ぶほど、落ちぶれちゃぁいない。  それでも毎日毎日同じようなニュースが流れる度に「懲りないなぁ」と思うおれは多分どっか壊れてる。  心が擦り切れるほど疲弊した日はせめて優しいニュースが見たい。  オリンピックの時期は良かった。テレビでは今日のメダル数や選手の素顔、更には芸術的な演技の数々をこれでもかと流していた。  でもそれが終わった途端またいつもの日常だ。  飽きもせずに誰かが誰かを傷つけた、殺した。ネットで虐められた、晒された。  そんなニュースばかりがたれ流される。 「仮にも大阪人ならも少し笑いをとらんかい」  暗いニュースばかりで、キャスターの顔色すら悪く見えるテレビに向かって独り言つ。  一人暮らしを始めて七年、社会人になって三年、そして独り身になって三ヶ月。  大学時代から付き合っていた彼女は「もっとスペックの高い男と結婚する」と、婚約指輪を用意したその日にフラれた。  高級なレストランなんか恥ずかしくて用意できなかった。小洒落たデートなんて夢のまた夢だ。  社畜じゃないが、社会人になって自分の時間はだいぶ減った。学生だった頃の半分以下だ。それなのに予約の取れないホテルがいいだの半年待ちのレストランがいいだのと言いたい放題の女だったなぁと一人寂しくコンビニ飯をつつきながら思う。  当分女はいいや。  だからといって男は論外だがな!と誰に言うわけでもない言い訳をしてる自分に笑ってしまった。 「なんやねん」  そうやって雑務で疲れた体を風呂で洗い流し顧客対応でこんがらがった頭をくだらないゲームでリセットして布団に潜り込む。
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