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―――というのが去年の話。俺は無事に三年に進級できたし、兄ちゃんもまだ実家暮らしだ。
本当は怖いんだ。何時か居なくなるんじゃないかって。その思いは兄ちゃんに顕著に現れた。
一日何度も所在確認のLINEがくるし、ちょっとでも帰りが遅くなると必死で探し回る。電車の事故や予想できない何かがあった時は必ず兄ちゃんに連絡を入れた。
「たった二人の家族なんだぞ!」
人身事故があって帰宅が二十分遅れた時、真っ青な顔で抱きついてきて申し訳なかった。待たせる方は怖くないんだ。俺も兄ちゃんが遅くなるとダメだった。
仕方ない、まだ一年も経ってないんだからってお互いに言い訳して、ヤンデレかって程お互いに執着していた。
そんな中で両親の一周忌を迎えた。
その日は一日中家の中で来客の対応に追われて、来てくれた全員に頭を下げお礼を言い香典返しを渡す。
この一年で慣れた作業。慣れたくなんかなかった流れ。
この一年、兄ちゃんが笑わなくなった原因。いや、笑いはするんだけど、泣かなくなった。あの時だって静かに涙を流して終わった兄ちゃんの悲しみは何処へ行くんだろう。泣かないから心配が止まらないのかもしれない。
そんな時、一周忌に来てくれた従兄弟が俺と手を繋いでいる写真を撮ってSNSにアップしていた。
「なんかね、このタグが良くってさ」
まだ高校生の従兄弟がちょっと恥ずかしそうに「手ぇつながん?」と兄ちゃんと他の従兄弟も集まって総勢九人で撮った写真には『# 手をつなごう』と『# 従兄弟が集まって』とタグが付けられていた。そのコメントは『悲しい日こそ笑顔で』とあって、確かになぁと納得したのだ。
みんなが帰って、途端に静かになった部屋に兄ちゃんと二人。
【ハヤトは我慢強いから心配】と母さんが言ってた。兄ちゃんはいつも【兄だから】と我慢していた。父さんも母さんも【兄だから】というフレーズを使うのは兄ちゃんにだけ何かをする時だったのに、兄ちゃんは何時でも【兄だから】と我慢する。
そうして今は【大人だから】と悲しみをこらえる。
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