ナツキとイクヤ

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ナツキとイクヤ

 緊急事態宣言で外出禁止になって去年は半分くらいリモートで授業だった。休みだった分の授業は無理やり詰め込まれ、高三の今になって日本史やら世界史なんかをやらされている。  やらされているって変な言い方かもしれないけど、実際第二次世界大戦やアヘン戦争や応仁の乱なんかよりもずっとコロナで出来なかった学校祭や体育祭の方が重要だし、そのせいで不貞腐れた生徒たちの行き過ぎた行いが問題になってたりする。  体育の授業は体育祭に命かけてる奴らが鬱憤を晴らすように運動の出来ない奴らに当たり散らすし、それに便乗するように文化系の部活の奴らが抗議の嵐だ。  久しぶりの学校だってのにようやく会えた友人に挨拶するより先に学校行事の中止に文句を言う奴らにうんざりする。唯一穏やかなのは帰宅部の連中だけだ。  まぁ俺もその一人なんだけど。  だからこそ教室の異様な空気が重すぎてそれだけでぐったりする。  多分ヒソヒソと話す奴らはオンラインで繋がっていてそこでの愚痴の続きなんだろうけど、その中に入ってない俺なんかにしてみれば「他所でやれよ」って感じ。 「ナツキぃ、帰りマック寄ってかね?」  だるそうな声で俺に話しかけてくるのはイクヤ。この高校に入ってからの親友だ。向こうの一方的な。  俺は・・・初めて会った時から友だちなんて思ってない。出来ればもっともっと深い中になりたい。イクヤの唯一無二の存在になりたい。そう思って隣にいるのに。  このバカはこの三年間女を取っかえ引っ変えで、それも美人で可愛くて素直で頭が良くて、なんてスペックの高いのをそばに置くから毎度三百人中百五十位辺りをうろちょろしていてクラスの中じゃ下から数えた方が早いくらいには足が遅くて美人でも可愛くもない、そもそも女じゃない時点で俺には全く望みはない。だから親友、なんて地位に満足しなくちゃいけない。 「おー。午後イチって英語だっけ?」 「あー、ヒヤリングのテストじゃなかったっけ?」  そんな風に始まった午後の授業でもやっぱり教科書の中でも喧嘩をしていて、なんだかなぁってため息が出る。
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