ムラセとサイトウ

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 誰も手伝ってはくれない、課長からの無理難題をせっせと片付ける。  自分の仕事は終わったのに、当たり前のようにデスクに置かれる課長の担当支店の報告書。  早く、早く痛い傷を治してもらわなくちゃ。 「ムラセ、少しこっちによこせ」  聞きなれないセリフに顔を上げれば、サイトウ主任が眉間に皺を寄せて苛立たしげに手を出している。  少しづつ二人で手分けして作業すれば、幾分かは楽になるだろう?  そう言った主任に申し訳程度の案件を渡すとキッチリ半分になるように持っていかれ、手書きの課長の字が汚いとかなんでパソコン使わないんだとか文句を言いながらも淡々とこなしていく。  パソコンはドタドタと人差し指二本で打つからいつまで経っても報告書は終わらないし、思いついた事を見もせずに書くから字も汚いし書く場所も違う。何度言っても直してくれないから俺はもう諦めている。  そうやって二人で何とか終わらせて会社を出たのが十時半。これから呼んでも誰も来てくれないのは明白で、この疲れは、痛みは誰もどうにもしてくれないんだとため息が出る。 「ムトウはゲイだったか?今日の相手がいないなら、オレが手を挙げるが」  横目でちらりと俺を見た主任がそっと肩を寄せてくる。 「サっサイトウ主任、ちっ近いです!」  思った以上の顔の近さに焦る。行為の最中でさえこんなに顔が近づく事はない。どの道発散するための行為だし、お付き合いなんてできるはずもない。お互い割り切った関係なのだ。 「・・・まぁ、言いたい事は山のようにあるけど、とりあえず今日はオレんち来い」  無理矢理、拉致られるように主任の住むマンションへと連れ込まれ、いつものように痛みを貰えるわけもなく、ただひたすらデロデロに甘やかされて蕩けさせられて。  なのに不思議と痛みも悲しみも無くなっていた。
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