ムラセとサイトウ

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 翌日、会社に着いた途端新卒のイケメンが「今流行ってんですよ」と何とかグラムだか何とかッターとかを見せられた。 『# 手をつなごう』とタグの付いたそれは様々な人が想い人や大切な人たちと手を繋いでいる。 「その前に、課長の解任ですかね」  主任以下、俺以外の課の人間が課長に対して苦言を呈し、今朝部長や専務に談判に行ったと知ったのは、誰も来ない部屋で黙々と作業した後だった。  もうすぐ昼休みだと言うのに課長と俺以外の誰もいなくて、相も変わらず「ムトウ!」と怒鳴られていた俺。  その様子をどこから見ていたのか、入社以来二度か三度程しか見たことの無い専務が「呆れて物が言えん」とため息と共に入ってきたのだ。  その日の午後には課長は降格し、主任が課長へと昇進した。  ・・・まぁ、まだ辞令は出てないからもう少し先の事だろうけど。  就業時間が過ぎた頃に、件のイケメンが「俺たちもやりましょうよ」と例のSNSを課のみんなと共有し、昇進の前祝いだと盛り上がった。  やろうやろうと盛り上がる人たちの中で俺だけがよく分かってなかった。どういう理由で課長が異動になって、みんながこんなに笑顔なんだろう。 「ムラセもほら。ちゃんと輪に入って。手をつなごう?」  クスクス笑うサイトウ主任に手を引かれて同期の女性とも手を繋ぐ。  バンザイの形で全員が繋いだ手を掲げる。  見せてもらった写真は、輪になった課の人達が隣の人と繋いだ手を挙げていた。みんなマスク越しでも笑顔で楽しそうだ。  そして主任がゆっくり俺の頭を撫でて「みんながついてるからな」と一際優しい笑顔で笑っている。  さっき見た写真と、いつでも主任が居てくれるとなんだかすっごく安心してしまって、ついふふふっと笑ってしまう。  その場にいた全員に写真は共有された。そして後輩イケメンが『消毒は何時したらいいんだろう』のコメントと共に早速アップしていた。 『# 手をつなごう』と『# 最高の仲間』のタグをつけて。
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