アオイとヨウスケ たまにノン

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 骨折無し内臓も無事、複数箇所の擦過傷と飛んできた人を受け止めた時の背面打撲と後頭部の強打。一応脳波に異常無し。後は目が覚めてからの精密検査次第。  四時間後に一般病棟に移ったアオイの現在の症状。まだ目が覚めてない。だったらICUとか個室とか、もう少し安静にできる場所を用意すべきだ。とは思うがあの事件の被害者は十数人にも上り、対応病院がココしかないのであれば仕方がない。それでなくても病床数がそれほど多い病院では無い。  小さなベットをカーテンで仕切って、ガヤガヤする病室で小さなアオイの為の空間を作る。  ―――大丈夫だよ、そんなに怖がらなくてもここには酷いことする人いないよ。だから早く目を覚まして。  アオイの手を握って強く願う。ほんの数時間前の願いは聞き取って貰えなかった。だからその分。早く目を覚まして。 「ヨウスケ、アンタがそんなんじゃアオイだって安心して目覚めらんないよ。とにかく今は顔洗って飯食っといで」  ノンが俺の頭を軽く小突いて千円札とタオルを手渡される。  そんな悠長な事をしてる時間ある訳ない。真っ青な顔でしてるかしてないかわからない呼吸音に心配になって時折鼻の近くに顔を寄せて。唇が乾いてきたらガーゼで水を含ませて。やる事なんて山のようにある。  その時慌てて帰国した、海外出張に行っていたアオイのお父さんとそれについて行ったお母さんがカーテンを開けて入ってきた。  お父さんとお母さんに事の経緯を話し、深く頭を下げる。  俺が誘わなければ。せめてもう少し遅い時間だったら、明日にすれば。  大学生の俺が無理を言ってアオイを連れ出したから。  何年もかかってお互いの両親の承諾をやっと貰ったばかりなのに、認めた途端のこの事故だ。アオイのご両親にしてみればやり切れない。それでもお母さんは俺を気遣ってくれ、とにかくご飯食べましょうと情けなく涙を流す俺を病院併設の食堂へ連れて行ってくれる。  ただ、何一つ喉を通らなかった。コーヒーでさえ。  そんな俺にお母さんに「無理してでも食べなさい」とお店の人に頼んだおにぎりを渡される。  一口、そしてまた一口。食べる度に涙が溢れる。アオイもお腹すいてるんじゃないか、甘い物が好きなアオイはココアを飲みたいんじゃないか。そんな事ばかりが頭の中を占める。
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