第12話:天下の駆け引き

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   ノアが双極宇宙論を理解するにあたって、“会ってみたい”と思いついた人物の元を訪れたのは、それから一週間後の事である。  場所は皇都惑星キヨウの『ゴーショ行政区』に建てられている、ノアが以前に留学していたキヨウ皇国大学、次元物理学教授のリーアム=ベラルニクスの研究室であった。ノアは五年前、皇都キヨウにノヴァルナ達と訪れた際にも、『超空間ネゲントロピーコイル』の情報収集と解析を行うため、ここを訪ねている。  ノアがノヴァルナと共に飛ばされた皇国暦1589年の世界で、ルキナが研究員として働いていたのが、このベラルニクス教授を中心に設立された、恒星間航法の技術革新を目指す『ベラルニクス機関』だった。  メッセージの中でルキナが、“双極宇宙論”を研究員時代に聞いた事がある、と言っていたところから、ノアは機関の設立者のベラルニクス教授であれば、もっと詳しい情報を得られるのではないか?…と、考えたのだ。  五年前に訪れた時はお忍び同然であったため、同行していたのはカレンガミノ姉妹だけであったが、今回はウォーダ軍が大挙してキヨウへ進駐している関係もあって、秘匿が難しくなっていた。  そこでノアは発想を逆転させて、“かつての留学先への表敬訪問”という、今をときめくウォーダ家の奥方による、公式行事という形をとった。そしてその中で、ベラルニクス教授との歓談を表向きに、“双極宇宙論”についての話を聴くつもりである。  一方ノヴァルナは、キヨウの衛星軌道上に停泊した総旗艦『ヒテン』で、訪問者を待っていた。  トゥ・キーツ=キノッサが献上金の取得交渉に成功して、自治星系ザーカ・イーの行政評議会議長のソークン=イーマイアを、ノヴァルナに引き合わせるために連れて来るのだ。  難航していた交渉も、アンドロイドのP1-0号の助言を得たキノッサが、方針を変更して、ザーカ・イー星系が推し進めている銀河皇国の文化財保護への、協力体制を整える事を確約したのをきっかけに、話が進んだのである。 「ミノネリラへ、お帰りになるのですか?」  執務室で、複数枚のホログラムスクリーンを机の上に並べて浮かせ、何かの調べ物をしているノヴァルナに、傍らで事務処理を行っている、補佐官のジークザルトが尋ねる。今はキノッサの到着待ちの時間だ。 「おう。前にも言ったが、十月には帰る。ミノネリラやオ・ワーリも、まだほっとくワケにはいかねーからな」  ホログラムキーボードに、素早く指を滑らせながら応じるノヴァルナ。 「まだひと月ほどありますが、それでも今の未消化の予定を考えると、結構タイトなスケジュールになりますね」 「それな。ギーフィーに帰ったら、少しは休ませてほしいっての」  ジークザルトの指摘に、ノヴァルナは苦笑いを浮かべる。  
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