第8話:皇都への暗夜行路

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   ノヴァルナの命令で、上洛軍がヤヴァルト宙域に入ると同時に、ルヴィーロ・オスミ=ウォーダの第3艦隊、ヴァルカーツ=ウォーダの第14艦隊、ヴァルタガ=ウォーダの第15艦隊が、先行部隊として分離された。  先行部隊はさらに全ての宙雷戦隊を前進させ、直径二千憶キロに及ぶ、半球状の哨戒網を展開。敵迎撃部隊の出現に備える。  そしてそのまま何も起こらずにしばらくは時間が経ち、動きがあったのは5月の8日、上洛軍がキヨウのあるヤヴァルト星系を目前にした、ヒーガスマ星雲へ差し掛かった時であった。  総旗艦『ヒテン』の私室で就寝中だったノヴァルナの、ベッドの脇で通信機が音を立て、事態の発生を知らせる。寝ぼけまなこを指で擦りながら、上半身を起こしたスエットスーツ姿のノヴァルナは、艦内時間で午前三時過ぎを示す表示を一瞥して、「俺だ…何があった?」と問い質す。通話に出たのは『ホロウシュ』の夜間当直、クローズ=マトゥだった。マトゥは「ご就寝中に申し訳ございません」と、詫びの言葉を前置きして報告した。 「第14艦隊の前哨駆逐艦から、所属不明の艦隊を発見したとの連絡です」  マトゥの言葉を聞きながら慌てる様子も無く、んんー…と背筋と両腕を伸ばしたノヴァルナは、「14艦隊からデータは入ってるか? 入ってたらこっちへ回せ」と命じる。やがて隣のベッドで寝ていたノアも起きて来た。 「敵?…ミョルジ家?」 「分かんねーけど、味方じゃねーだろな」  ノアの問いに答えると、ノヴァルナの意識もはっきりとして来る。そこへ転送されてくる第14艦隊からのデータが、ホログラムで浮かび上がった。どうやら時差はあるがリアルタイムのようだ。総旗艦『ヒテン』のいる第1艦隊の60億キロ先をいく、第14艦隊の哨戒駆逐艦の中の二隻が発見したのは、ヒーガスマ星雲内から続々と出て来る、“UNKNOWN”が表示された光点だ。その数はすでに百や二百どころではない。それらは数十個ずつの集団に分かれているところから、複数の基幹艦隊クラスの集団であるように見える。 “待ち伏せか?…いや、それなら俺達の艦隊がもっと星雲に近づくまで、中に潜んでいるのがセオリーだが…”  訝しげな眼をするノヴァルナに、一緒にデータを見ているノアが言う。 「結構な数ね。でも案外遠くで、見つけられたじゃない…もしかして、わざと私達に見つかるように、出て来た?」  自分が抱いたのと同じ疑念を、そのまま声にして口にする妻を振り向き、ノヴァルナは艦橋にいるマトゥに尋ねた。 「マトゥ。相手側の前哨駆逐艦は、見つかってねーのか?」  
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