第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める

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   浮遊書庫の窓から差し込む柔らかな陽光の下、本を開いたランに、ノアが静かに問い掛ける。 「本についての、懐かしい思い出?…よければ聞かせてもらえますか?」  あまり自分の事は口にしないランだったが、少し間を置いて頷くと、開いた書籍の扉絵に視線を落として、おもむろに話し始めた。 「この浮遊書庫…私が子供の頃に持っていた、絵本の光景とよく似ているんです」 「絵本…ですか?」 「はい。タイトルは“そらとぶとしょかん”と言って、子供の魔法つかいの兄と妹が、全ての人を幸せにできる魔法が書かれた本を、収めてあるという空飛ぶ図書館を探して、世界中を旅をするというあらすじでした」 「その図書館が、この浮遊書庫と似ていた…と?」 「はい。この星に来て、山の間で霧の中に浮かぶ、この浮遊書庫を初めて見た時、 絵本の中に描かれていた、空飛ぶ図書館の絵とそっくりでしたので…」  そこでランは照れ臭そうに、うつむいた頬を僅かに染めて眼を泳がせる。浮遊書庫へ来た時の、まるで幼子であった自分の様子を思い出したのだろう。その反応を可愛らしく思ったノアは、そういった表情を見せてくれるようになったランと、また少し距離が縮まった気持ちがした。  ただ“それであんなふうに、はしゃいでいたのですね”とからかうには、まだそこまで距離は近くないとも感じ、優しく尋ねる。 「大好きな絵本だったんですね」  するとランは遠い眼をして、ぽつりと言った。 「父が買ってくれたんです………」  続々と迫って来るモノトーンのBSIユニット。攻撃の仕方は突撃中心の単調なものだが、数が多すぎる。『レイメイFS』の十文字ポジトロンランスが、真横に薙ぎ払われて、二機の敵ユニットが同時に真っ二つになった。  しかしその向こうでは、配下の『シデン・カイ』が腹部のコクピットを、敵の薙刀に断ち割られて崩れ落ちる。  複数のロックオン警報。サンザーは操縦桿を引いて一気に機体を後退。アザン・グラン軍の三機の『ハヤテGC』から放たれた、狙撃の銃弾をまとめて回避する。一発が機体の左膝を掠めて装甲を削るが、戦闘には支障ない。  そこへクァンタムブレードで斬りかかって来る、アーザイル軍の『イカヅチ』。そのブレードを鑓の柄で叩き落としたサンザーは、返した穂先の十文字の刃で敵機の脇腹を掻き切った。さらに敵機から叩き落としたブレードを拾い上げた『レイメイFS』は、これを真っ直ぐ投擲。自分を狙撃しようとした『ハヤテGC』の一機を、刺し貫いて撃破する。弾の尽きた超電磁ライフル代わりだ。  
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