第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める

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   覚悟と闘志に満ちた吐息…この戦いが開始されて、すでに二時間半が経過している。敵がノヴァルナの部隊を襲撃するための、接触可能残り時間はあと三時間半。足止め時間にはまだ不充分な気もするが、ウーサルマ星系の第二次防衛線を突破するには、時間が足らなくなるはすである。  なぜならウーサルマ星系に配置した戦力は、宙雷戦隊とサンザーが残して来た第6艦隊空母部隊の半数であり、機動戦主体の戦力だからだ。つまりこれに対する最適解を得るためには、敵もBSIユニットなどの機動戦力を、集中させねばならないのだ。  しかしながら敵はその事にまでは気付かず、初手から『レイメイFS』に搭乗して最前線に出て来た、サンザーとその半数の配下に、BSI部隊の全力攻撃を仕掛け、いまだ戦い続けているサンザーを討ち取るため、かなりの数のBSIユニットをここへ残している。そうであれば必然的に、ウーサルマ星系防衛線を突破するための機動戦力が不足する。 “ナギ殿の青さか、はたまたウィンゲート殿の素人さか…”  自分の命を代償に仕掛けた策に嵌った敵将の迂闊さに、サンザーは口元を大きく歪めた。そして突っ込んで来る、所属不明艦隊のモノトーンBSIを、地表を這わせてすくい上げた、十文字ポジトロンランスの穂先で真っ二つにする。  無論、サンザーにも読み切れない事実があった。いま斬り捨てた、所属不明の白と黒に塗り分けた敵BSIと、それを発進させた艦隊だ。ふっ…と、サンザーは笑みを零す。 “俺もまぁ…まだ、詰めが甘いという事か―――”  コクピットを覆う、全周囲モニターが映し出す前方の映像には、我先にと列を成して迫って来る敵のBSIユニット。ヘルメットのスピーカーに響くのは、大量のロックオン警報と近接警戒警報。さらにサイバーリンクによる“心眼”では、自分と僅かに残った味方機を幾重にも囲む敵機。  サンザーは『レイメイFS』が手にする、大型十文字ポジトロンランスを握り締めさせて、生き残っている部下に呼び掛けた。 「この場は俺に任せて、皆は撤退し、ウーサルマ星系の防衛線に加われ!」  それが何を意味するかを悟り、サンザー直属の“ハンター中隊”の生き残りが、強い口調で抗議する。 「それはなりません、サンザー様! ここは我々が―――」  それでもサンザーは聞き入れない。相手が言い終わる前に、冗談交じりに言葉を返す。 「ハッハッハッ。おまえ達の腕では、敵を引き付ける餌にもなるまいて!」  
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