第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める

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   むしろ清々しい気分でサンザーは胸を張り、言い放った。 「誰でもよい。生き延びてウーサルマ星系へ辿り着いた者は、ノヴァルナ様に俺の言葉を伝えてくれ。“仇討(あだう)ち無用。まず大望を果たされたし”と!」  そしてサンザーは、部下達の引き留める声の中、溢れかえる敵の中へ自分から飛び込んで行った――― 煌めく鑓の穂先が、敵機の胴体をまとめて三体、貫き通す――― そのまま振り回した鑓に飛ばされた敵機が、突撃して来た敵機と激突――― 至近距離から放たれた銃弾が、脇腹を掠めて装甲版を引き裂く――― 撃って来た敵機の頭部を、鑓の石突きが突き砕く――― 舞い散る敵機の破片の中、『レイメイFS』の眼が緑色に輝く――― 重なるサンザーと、複数の敵パイロットの叫び声――― 修羅と化す。  腹部を切り裂かれた所属不明BSI、バックパックが爆発し、粉々となったアーザイル軍の『イカヅチ』、斬撃で半身を失った、アザン・グラン軍の『ハヤテ』…第五衛星の灰白色の大地に、何本もの鑓や矛が突き立ち、飛び散った人型機動兵器の腕、脚、頭、そして様々なパーツが地表を埋め尽くす。無論、その数に比例して搭乗者の命も散ってゆく。  怯懦に駆られて突き出した矛が味方を割り貫き、闇雲に放った銃弾が味方を打ち砕く。それはまるで、鬼のサンザーが機体から放つ気迫が、同士討ちをさせているようにまで見える。 「ワハハハハ! おぬし達! 一人として生かして帰さぬぞ!!」  煽りの笑い声を交えて、全周波数帯で敵にも聞こえるように言い放つサンザー。普段の「命が惜しくば、逃げ去れ」とは違う口上だ。そのまま振り下ろした鑓の穂が、背後から斬りかかろうとしていた、『ハヤテGC』をバサリと断ち割る。 「こいつ…バケモノか!!」 「い、いやだ。死にたくない!」  サンザーを取り囲んでいた敵の何人かが、この口上と斬撃の光景に逃げ腰になって、機体を翻す。するとサンザーは強引に機体を突っ込ませ、この逃げようとしていた機体を追う。『レイメイFS』の機体性能を余すところなく引き出した、圧倒的な加速力だ。 「ひ、ひいいいいっ!!」 「助けてくれぇ!!」  瞬時に追いついて来る『レイメイFS』に、哀れな声を叫ぶ敵パイロット。だがその速さは誰も阻止出来ない。刺し貫かれた機体はパイロットの命ごと、機能を停止する。相手の「ぎゃああっ!」という断末魔の叫びと共に、サンザーは敵の大軍に振り返って言い放つ。 「俺の名は“鬼のサンザー”。忘れたか?」  その表情はまさに鬼であった。  
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