第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める

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  「俺は鬼だからな。逃げる奴から、追いかけて殺す!」  十文字ポジトロンランスを大きくひと振りし、強い口調で放言するサンザー。たじろぐアーザイル家とアザン・グラン家のパイロット。威圧感のある物言いで、自分達が追い詰められていると思わせる、歴戦のサンザーならではの、巧みな心理誘導であった。 「く、くそ。やられるぐらいなら…」 「やるしかない!」  自分達にはあとが無い…という思いに囚われた、アーザイルやアザン・グランのパイロットらは、ゴクリ…と喉を鳴らし、各々の乗る機体が手にした得物を、握り直す。 「来るがいい! 生きたくば、このサンザーを斃してみせろ!!」  そう言うサンザーを乗せた『レイメイFS』は、右手に大型十文字ポジトロンランスを握り、両腕を大きく広げた。その動作に釣られるように、取り囲む敵のBSIユニットが十機以上、同時に突撃を仕掛けて来る。 「うおあああああ!!」  叫ぶ敵パイロット達。対するサンザーは大きく頷く。 「おおう!」  敵の動きは望んだ通り。サンザーは『レイメイFS』の機体を包む重力子フィールドを、ポジトロンランスの穂先に集中、下段に構えて機体をその場で、一回転させた。すると穂先から放たれた重力子が、第五衛星の地表に大きな円を描いて、大量の砂を噴き上げた。  もとより惑星より重力の小さな衛星の地表である。サンザーが振るった鑓の重力子放射に、大量の砂がカーテン状に舞い上がって、『レイメイFS』の姿を隠す。敵はその砂のカーテンを突っ切って、攻撃を掛けようとするが、そこに待ち構えていたのがサンザーの鑓であった。  砂のカーテンを突っ切る際に、ほんの一瞬だけ視線が切れる。だが待ち構えるサンザーの技量からすれば、充分に“長い”時間であった。切れた視線を元に戻そうと、視線を泳がせた僅かな隙に素早く薙いだ鑓の穂先が、敵の機体を次々と葬る。  しかし相手は多数の機体による一斉突撃。さしものサンザーも対処し切れずに、『レイメイFS』は機体の複数個所に、比較的大きなダメージを受ける。そこで再び振るわれて地表を抉る十文字の鑓。立ち上る二度目の砂のカーテンは、生き残った敵と、新たに突撃して来た敵の視界を遮り、サンザーの鑓の餌食となる。 「ワッハハハ! 甘い、甘い!!」  笑い声と煽り文句に塗れたサンザーの鑓が、穂先を煌めかせて、更なる敵BSIユニットを冥土へと誘う。だがそう言うサンザーも疲労が募る。ヘルメットに鳴り響く近接警戒警報に、振り返った双眸が捉えたのは、敵が放ったポジトロンパイクの、輝く切っ先だった。  
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