第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める

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   刹那の判断。サンザーは咄嗟に機体を翻す。突っ込んで来たのは、親衛隊仕様の『ハヤテGC』だ。流石に避けきれず、『レイメイFSは』右腰部に浅くない裂傷を負う。さらにポジトロングレイブを真っ直ぐ構え、突撃して来る三機のモノトーンBSI。こちらもすでに必殺の間合いだ。  これに対しサンザーは、反射的に『ハヤテGC』のバックパックを片手で掴み、自分の機体の前に引き戻す。その急な動きに瞬間、右腰部に出来た裂傷からスパークが眩く飛び散った。盾代わりにされた『ハヤテGC』は、三機のモノトーンBSIが長く突き出したポジトロングレイブに、次々と刺される。  瞬時の機転でサンザーが危機を回避したかのように見えた、しかしその直後、三機のモノトーンBSIユニットは、重力子スラスターをブーストし、味方の『ハヤテGC』に突き刺したポジトロングレイブを、容赦なくさらに押し込んだ。その刃先は『ハヤテGC』の機体を貫き、背後にいた『レイメイFS』にまで達する。しかもそのうち一本はコクピットにまで達し、サンザーの左肩を切断した。  するとバックパックを貫かれた『ハヤテGC』の、小型対消滅反応炉が爆発を起こし、『レイメイFS』と三機のモノトーンBSIを薙ぎ倒す。 「む…う…」  サイバーリンクで機体を起こしながら、サンザーは機体と自分の傷口を見た。敵のポジトロングレイブは、『ハヤテGC』の爆発で抜け、機体に出来た裂け目は、瞬時に噴き出した緊急密閉ポリマーが、硬化して塞いでいる。全周囲モニターは左側四分の一が映らなくなっており、死角となっていた。  だがそれ以上に、問題はサンザー自身の負傷だ。突き刺さったポジトロングレイブの放つ、陽電子フィールドで左腕は肩口から、完全に消滅している。ただ高熱と共に消滅したため、傷口の組織は焼き塞がれて出血は少ない。  機体の耐久力の差か、倒れたモノトーンBSIは三体ともそのままだ。すると周囲の敵は、ここぞとばかりに押し寄せる。『レイメイFS』とパイロットが、深手を負ったのは、見た目にも明らかだからだ。  激痛の中でも間合いを計ったサンザーは雄たけびを上げ、大型十文字ポジトロンランスを大きく振り回した。 「うおおおおおおお!!!!」  鬼気迫るこの大旋回で、二機の『イカヅチ』、三機の『ハヤテ』、そして四機のモノトーンBSIが、一度に機体を斬り裂かれて弾け飛ぶ。サンザーの肉体は左腕を失っても、サイバーリンクで操作する、『レイメイFS』の四肢は健在だ。  
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