第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める

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   裂帛の気合と共に、サンザーはさらに二度、三度とポジトロンランスを大きく振り回す。両断された敵機の上半身、切断された腕や脚や頭が、大量に回転しながら舞い上がる。一緒に立ち上った灰白色の砂埃が、辺りを包み隠した。 だが、限界であった―――  休む間もなく敵を撃ち倒し、斬り捨て、刺し貫いて来たサンザーの気力、そしてその力を出し尽くした、BSHO『レイメイFS』双方ともだ。今の動きで、サンザーは失った左肩からの出血がひどくなり、『レイメイFS』は右腰部の損傷具合が大きくなった。機体右脚の腰部間接が機能を停止し、その場で片膝をつく『レイメイFS』。そこへ必死の形相のパイロットが乗る、アザン・グラン軍の『ハヤテGC』が飛び込んで来て、ポジトロンランスを突き立てる。その穂先は、コクピットのサンザーの脇腹まで刺し貫いた。カッ!…と吐血するサンザー。  しかしサンザーは何事も無かったように、残る右手でコンソールを手早く操作すると、『レイメイFS』の対消滅反応炉を意図的に暴走状態にする。その間にも第二撃の刺突を放つ『ハヤテGC』に加え、『イカヅチ』やモノトーンBSIが次々と、『レイメイFS』に得物を突き立てた。その光景は、勝負を決めにかかったというより、恐怖に駆られてのもののように見える。  これだけ敵を引き付けられれば、充分だろう…と、サンザーは鮮血が滴る口元を歪めた。そして暴走状態になっていた対消滅反応炉を開放するため、起爆装置代わりのスロットルを全開にする。 「ノヴァルナ様…これにて、御免!」  コクピットを白い光が包んだ瞬間、サンザーは妻のエイシアと、七人の子の顔を思い浮かべた。ラン、カリュス、ナガール、ヴォルマル、リッキー、ディルマス、メイス…みな元気であれと思う。すると不意に、少女だったランとの思い出に、欠けていたピースが収まった。 “ああそうだ宇宙港帰りに…あれは、絵本を買ってやったんだったな―――”  絵本を手に無邪気な、それでいてどこか照れたランの笑顔がこちらを見上げる…そこで、ウォーダ家BSI部隊総監、カーナル・サンザー=フォレスタの意識は、この世界から永遠に旅立っていった。  対消滅反応炉の暴走自爆は、通常の爆発より高威力であり、『レイメイFS』に殺到した多くの敵機を巻き込んだ。第五衛星の地表から飛んだ砂埃は、石英成分を大量に含んでいたらしく、セークモートン星系の恒星の光を受け、サンザーの夢のあとに鮮やかな虹をかけていた………  
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