第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める

25/34
前へ
/1248ページ
次へ
  「…ン…ラン!」  向かい側に座るノアの呼び掛ける声に、我に返ったランは「は…すみません」と応じ、止めていた指を動かして表紙をめくった。テーブルの上に積まれた、双極宇宙論に関する書籍の中から、新たに選んだ一冊だ。 「疲れましたか?」  ノアの問いにランは、軽く首を振って微笑む。ノアとラン、カレンガミノ姉妹、テン=カイとP1-0号、そしてモルンゴール星人の老女ベファルと、孫のバビュラ兄弟は、分担して集めて来た双極宇宙論に関する書籍を、各々に読んでいる。ただその内容を、本当に理解出来ているのは、ノアとP1-0号とテン=カイ。それにこの書庫の常連である、ベファルぐらいのものだ。 「いえ。いま父に呼ばれたような、気がしまして…」  そう言ってランが自分が開いたページに視線を落とした。するとそこに書かれたモルンゴール語の見出しに、“これはもしや…”と感じ取った。 「ノア様。これを」  書かれていた見出しは、“双極宇宙の特異点喪失による崩壊と新生”である。差し出されたこれを見て、ノアは眼を輝かせる。現在の彼女が一番知りたいのは、皇国で入手した、科学省研究員シグルス・レフ=ファンクードの告発―――かつての皇国科学省が極秘裏に行っていた、“宇宙破滅兵器”についての情報であり、ランが見つけたこの文章には、その重要な手掛かりが存在している可能性があった。 「これは…こちらに渡してもらっても、いいですか?」 「どうぞ」  自分が読んでも、半分も理解出来ないであろう内容なのは間違いなく、ランは納得ずくで自分が手にしていた書籍を、ノアに手渡した。真剣な眼差しになり、早速中身を読み始めるノアを見て、ランは父のサンザーが“これだぞ”と、教えてくれたように思う。  そこへ手当たり次第に書籍を掴み取り、超高速でページをめくって、瞬時に書かれた内容を全て記録していた、アンドロイドのP1-0号がノアに進言した。 「ノア様。私に預けて頂ければ、先に内容を記録し、後ほどご自由にホログラム端末へ映し出す事が出来ます。その方が効率的だと思われますが?」  しかしノアは書籍を黙読しながら、これを拒む。 「ありがとうP1-0号。でも私は、まず自分の眼で読みたいのです」  およそ非論理的な発言だが、P1-0号はこれを了解…いや、理解した。 「わかりました。では読み終わったあとで、私にお預け下さい」  
/1248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

219人が本棚に入れています
本棚に追加