第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める

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   『アクレイド傭兵団』はいわゆる“民間軍事会社”だが、それはさらに巨大な組織の一部であるらしいというのが、ノヴァルナとノアの認識であり、こちらに関してはウォーダ家そのものの、戦略にもかかわる問題である。  これはあくまでも想定の一部だが、“超空間ネゲントロピーコイル”の建造などによる、これまで長期間にわたる『アクレイド傭兵団』の暗躍が、この“宇宙破滅兵器”の開発を目指すものであった場合。もしそれが完成してしまうと、銀河のパワーバランスは、大きく変化…それも悪い方に変わるに違いない。  現在の銀河皇国がおよそ百年の戦国時代を続けているのは、各宙域を支配する星大名が、戦力的にほぼ均衡しており、部隊の移動距離も制約があり、そして勝利を決定づける絶対的兵器が存在しないからだ。  そこへ『アクレイド傭兵団』が“宇宙破滅兵器”の開発に成功し、その起動と引き換えとして、星帥皇室と全ての星大名に向け、なんらか大規模な要求…例えば、星帥皇室に代わる銀河系支配や、複数宙域の領地化などを言って来たなら、これを拒否するのは難しくなるだろう。  無論、“宇宙破滅兵器”を使用すれば、『アクレイド傭兵団』も滅ぶ事になるはずだが、最終兵器を盾とした脅迫とは、古来よりそういうものだ。事実ヤヴァルト皇国が惑星キヨウを統一するまでの、大小の国家が林立していた時代、大国同士は多数の戦略核兵器を保有し、一度双方が撃ち合えば、惑星キヨウそのものが破滅する状況の中で、せめぎ合いを行っていたではないか。  そういった推論も踏まえ、ノアはノヴァルナと共に、『アクレイド傭兵団』を含む謎の存在の、最終目的を探らねばならないと考えていたのである。  するとノアの向こうで、別のテーブルセット付重力子プレートに乗り、書籍を開いていたモルンゴール星人のベファルが、「あった、あった」と言いながら、表紙を平手でポンポンと軽く叩いた。 「これを探してたんだよ」  そう続けたベファルは、振り向いたノアに一冊の書籍を差し出す。 「それは?」とノア。 「“双極宇宙における因果律特異点の作用”さ。少々飛躍した論文だけど、それが印象深かったんでね。ただ、あたしも歳だからねぇ。ざっくりとした中身は覚えてたんだが、肝心のタイトルを忘れちまってさぁ」  と言って陽気な笑い声を上げるベファル。孫のザリュードとバジラードが、自分の口に人差し指を立て、「婆ちゃん、大笑いはマズいって」と止めに入った。  
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