第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める

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   “双極宇宙における因果律特異点の作用”…そのタイトル名を聞き、ノアはこれが重要な意味を持つ事に気付く。それはかつて、皇国科学省研究員のイルーク星人女性、シグルス・レフ=ファンクードが告発した、当時の銀河皇国科学省が秘密研究を行っていたという、“特異点崩壊による多元宇宙の収束と一元化”に繋がるものに違いない。そしてこれは“宇宙破滅兵器”にも関係している話だ。  そこへさらにP1-0号も、ここまでの高速読み取りの手を止め、「これは非常に興味深い発見です」と告げた。  居合わせた皆が視線を向ける中で、P1-0号はまず前説から入る。 「皇国ではあまり知られていない事実ですが、モルンゴール帝国は銀河皇国より早く恒星間航法を開発し、シグシーマ銀河系内の広域探査を行っていました。この書物は帝国が、皇国とファーストコンタクトを行う前、およそ五百年前に書かれた、銀河探査についての記録です」 「?…」  それとどういった関係があるんだろう、という顔を皆がする。だがそこから続けたP1-0号の話は、確かに驚きであった。 「この記録によるとモルンゴール帝国は、銀河皇国より早く、我々のカタログナンバーで言うところの、UT-6592786星系第四惑星に到達し、この惑星に存在していた超高度文明の遺跡を、調査したようです」 「えっ! あの惑星を!?」  声を上げるノア。UT-6592786星系第四惑星とは、この旅に出るきっかけとなった、“超空間ネゲントロピーコイルの応用による多元宇宙への干渉”の理論を構築した、超高度文明が太古に存在していた惑星である。  現在はタ・クェルダ家が支配する、シナノーラン宙域にあるこの星は、三年前のトゥ・キーツ=キノッサによる“スノン・マーダーの一夜城作戦”の際、大きな障害となった“昆虫型機械生命体”の母星でもあり、その危険性からノア達はここへの探査を諦め、同様の研究を行っていた、旧モルンゴール帝国領へ向かったのだ。 「はい。補足記録によりますと、やはり昆虫型機械生命体は、大きな脅威となったようですが、戦闘民族の帝国らしくこれを力づくで排除し、調査のための橋頭保を築いたらしいです」  ゆっくりと点滅するP1-0号の黄緑色のセンサーアイが、まるで苦笑いをしているようにも見える。だがいま彼が言った事はとても重要だ。銀河皇国より進んでいると思われたモルンゴール帝国の“双極宇宙論”も、実はあの昆虫型機械生命体の住む惑星が関係していたのは、予想外であった。  
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