第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める

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   ランの発見を始まりに、ノアの元に“双極宇宙論”と宇宙の終焉に関する、新たな重要情報が集まり始めたその頃、セークモートン星系でウォーダ軍に勝利し、次の目標であるウーサルマ星系へ超空間転移を行う寸前であった、アーザイル艦隊では、第六惑星に残して来たBSI部隊の戦果に将兵達が湧いていた。ウォーダ家の三人の司令官全てを敗死させたのだから当然だ。  その中でも重臣中の重臣で、“鬼のサンザー”と恐れられた闘将、カーナル・サンザー=フォレスタを討ち取ったのは非常に大きい。今後のウォーダ家にとって、大打撃となったはずだ。アーザイル艦隊の各艦に乗る将兵が、誇らしげに言葉を交わす。 「よぉし。やったなぁ」 「ざまあみたか、ウォーダめ」 「これでエイン・ドゥ様の、(かたき)も討てたというものだ!」  アーザイル家は前回の“アネス・カンヴァー星雲の戦い”で、当主ナギ・マーサス=アーザイルの右腕であった重臣、トゥケーズ=エイン・ドゥを失っていた。彼等にすれば、サンザーを討ち取った事は、ノヴァルナに同等の打撃を与えたと思えたのだろう。  そしてこれはアーザイル家と連合軍を組む、アザン・グラン家の艦隊も同様だった。こちらもやはり“アネス・カンヴァー星雲の戦い”で、BSI部隊総指揮官のモルンゴール星人、猛将ネオターク・ジュロス=マガランが戦死しており、その復讐を果たせた思いが強い。  アーザイル軍総旗艦『コウリュウ』の司令官室でも、この戦果に士気が上がっていた。当主で総司令官のナギの周りには参謀達に加え、第2艦隊司令官モートン・ゲバル=アーザイルと、第4艦隊司令官ノリス・トゥシス=アーザイルの、等身大ホログラムが集まっている。 「これは大きな戦果でしたな」と参謀長。 「そうです。敵の三将とも討ち果たしたのは、望んだ以上の戦果。艦隊の士気も、非常に上がっております」  ノリスも相槌を打って同意する。これに関してはナギも賛同するところだ。懐刀であり、親友でもあったエイン・ドゥの、“アネス・カンヴァー星雲の戦い”での死は、今やナギの妻でノヴァルナの妹のフェアンと、三人の娘を守るため以上に、ウォーダ家と戦う理由となっている。 「ああ。司令官を全員失ったとなれば、逆に敵は戦意が下がっているはずだ。ウーサルマ城の守備隊に、安全な退去と引き換えに明け渡しを、提案してもいいな」  正直、あまりウーサルマ城の攻略に、時間を掛けたくないナギ達であるから、全司令官の戦死によって、城兵が降伏してくれるのは歓迎するところだった。  
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